激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 心配になって声をかけようとしたとき、彼がため息をついた。

「こんなふうに抱くつもりはなかったのに……」

 私が目を覚ましていることには気づいていないんだろう。

 彼はひとり、暗闇に向かって自分の気持ちを吐露する。
 その背中には激しい後悔が浮かんでいた。

 私を抱いたことを、後悔しているんだ……。

 ショックのあまり指先が冷たくなった。

 それもそうだ。
 彼は怜奈さんを忘れられなくて、私と契約結婚をしたんだ。
 私を抱くつもりなんてなかったのに、こんなことになってしまった。

 怜奈さんへの気持ちを裏切ってしまった罪悪感にさいなまれているんだろう。

 目の奥が熱くなる。
 涙がこみあげてくる。嗚咽をもらしそうになり、慌てて口を手で塞いだ。

 すると気配に気づいたのか、彼がこちらを振り返った。

「日菜子?」

 私の名前を呼び、顔の横に手をつく。
 亮一さんに起きていることを悟られないようにぎゅっと目をつむる。

 彼が私の顔をのぞき込んでいるのが伝わって来た。
 必死に息を殺していると、しばらくして彼がベッドから立ちあがる気配がした。
 
 よかった。
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