激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 たとえ心がどんなに痛んでも、気にしないふりをして笑おう。

 私はそう決めたのだ。




 それから一カ月。


 十二月に入りワシントンは冬を迎えた。

 まだ積りはしないものの、白い雪がちらほらと空を舞う。
 クリスマスシーズンが近づき、街並みは一層華やかになった。

 表面上は以前のとおり仲のいい夫婦を装っているけれど、私たちの間には緊張感が漂っていた。

 亮一さんは今まで以上に優しくしてくれるし、私はつねに笑顔を浮かべ明るく振舞っている。

 一見穏やかな日々だけど、あの日のことには触れないようにお互いに気を使っているのがわかった。

 

 仕事に向かう亮一さんを玄関で見送る。

 チャコールグレーのスーツの上にキャメルのロングコートを羽織った長身の彼は、ほれぼれするほど魅力的だった。

「行ってくる」
「はい、気をつけて」

 以前の彼なら、いってらっしゃいのキスをねだった。

 顔を真っ赤にしながらぎこちなくキスをする私を抱きしめてから家を出た。

 けれどそんなやりとりはなくなった。

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