激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 キスやハグどころか、亮一さんが私の体に指一本触れないよう、細心の注意を払っているのが伝わって来た。

 ドアが閉まりひとりになると、口もとに浮かべていた笑顔が崩れる。
 私はゆっくりと息を吐き出した。

 あんなに激しく抱き合ったのに、心は遠く離れてしまった。
 それがどうしようもなく寂しかった。

 あれから怜奈さんのことはなにも聞いていない。
 気になるけれど、聞くのがこわい。

 あの夜彼の飲み物に薬を混ぜたのが誰なのかも、私は知らないままだ。
 でも、怜奈さんの仕業じゃないかと思う。

 彼女もあきらかに亮一さんに好意をよせていた。
 ふたりは想い合っているのに、外交官という立場を守るために彼は彼女への気持ちを押し殺していた。

 たぶん怜奈さんはそれが歯がゆかったんだろう。
 薬を使ってでも、彼の本音を聞きたかったんだと思う。

 私はふたりの想いに気づいているのに、亮一さんのそばにいたいという自分の気持ちを優先してしまった。
 そんな身勝手な自分がいやになる。

 
「明後日だよな。彰と早苗さんがこっちに来るの」

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