激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 どうしたんだろうと彼女の手もとを見て青ざめる。

 それは妊娠検査薬の使用法を書いた説明書だった。
 昨夜、動揺して雑誌の間に挟み、そのままにしていたんだ。

「あ、それは、なんでもない!」

 頭が真っ白になった私は、慌ててその紙に手を伸ばし体のうしろに隠す。
 そんな私を見た兄が、不思議そうに首をかしげた。

「どうしてそんな必死に隠すんだ?」

 たしかにこんなに必死になるなんて不自然だ。
 もっと冷静にごまかせばよかった。

「日菜子、もしかして妊娠してるのか? そうか、日菜子がママになるのか!」
「おめでとう日菜子ちゃん!」

 笑顔のふたりに祝福され、驚いて目を見開く。

 本来なら妊娠はよろこばしいことなんだ……。

 そう思うと同時に罪悪感がこみあげてきた。

 私はこの子の母親なのに、動揺して落ち込むばかりでよろこんであげられなかった。
 こんなんじゃ母親失格だ。

 おなかに宿ってくれた赤ちゃんに申し訳なくなる。

 自分が情けなくて涙があふれる。
 そんな私を見てふたりが表情を変えた。

「日菜子、どうして泣くんだ」
「妊娠がうれしくないの?」

< 205 / 231 >

この作品をシェア

pagetop