激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 ふたりからの問いかけに、涙をこらえながら事情を話す。

 こうなってしまった以上、もう契約結婚は続けられない。
 だって亮一さんには私以外に好きな人がいる。

 妊娠を知ったら、亮一さんは結婚生活を続けてくれるかもしれない。

 責任感の強い彼のことだから、自分の気持ちを押し殺しいい夫でいい父であり続けようとしてくれるだろう。

 心の中で怜奈さんを想いながら、私のために紳士で優しい仮面をかぶって。


 でも、彼に一生そんな思いをさせ続けるのはいやだ。

 涙をこぼしながら事情を話すと、兄のこぶしがぶるぶると震え出した。

「契約結婚だと? しかもほかに好きな女がいるだと? あのやろう……っ」

 地鳴りのような低い声でつぶやく。

「彰、落ち着いて」
「かわいい日菜子を泣かされて、落ち着いていられるか!」

 兄の怒りが爆発すると同時に、玄関のドアが開く音がした。

 兄はソファから立ち上がり、大股で玄関に向かう。

 ドン!と鈍い音が響き、私と早苗さんも慌てて廊下に出る。

 兄が亮一さんを壁に押しつけ、彼の胸ぐらを掴み睨み上げていた。

「彰、いきなりどうしたんだ」
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