極甘恋愛短編集
氷のように冷たい王子は、私にだけ甘い

冷たい同級生

職員室を出て教室までの道のりが永遠のように長く感じられる。


前を歩く先生は終始穏やかな笑顔で、時折振り向いて話しかけてくれる。


それがなかったら緊張で心臓が爆発してしまっていたかもしれない。


私がこの極甘高校に転校してくることになったのは、隣町の地元の高校が突然封鎖されることになったからだった。


原因は違法建築。


もともと通っていたその高校には屋上に貯水槽が並んでいたのだけれど、そもそも貯水槽の重さに耐えられるほどの強度はなく、今回それが露呈してしまったらしい。


生徒たちは仮設の教室を用意されたものの、私はこの際だから極甘高校に行ってみたらどうかと両親から提案されたのだ。


ちゃんとした校舎で勉強したほうがいいことと、受験のときどちらの高校に行くか散々悩んでいたからだった。


結局、家から近い地元の高校に進んだのだけれど、結果的にここへ来ることになった。


まだ1年が始まって数ヶ月だから、人間関係の構築もしやすいはずだと両親は考えたらしい。


私が勉強することになる1年A組の教室の前まで来ると担任の男性教員は一度足をとめて振り向いた。


「大丈夫?」


そう声をかけられて小さく頷く。


緊張はそろそろピークに達しそうだ。


A組の中からは色々な話し声が聞こえてきて楽しそう。


きっと、私はここでうまくやっていくことができる。


自分で自分にそういい聞かせてゴクリと唾を飲み込む。


先生がガラッと教室のドアを開いて、私は背筋を伸ばした……。
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