極甘恋愛短編集
「え?」


私は首をかしげて聞き返す。


「人前で笑顔になることとか、優しくすることとか」


「で、でも、子猫には優しいよね?」


それに、私には色々な笑顔を見せてくれている。


そういいたかったけれど、おこがましい気がして言えなかった。


「子猫は損得がないからね」


西原くんの表情はまた暗くなり、さみしげな声に変わる。


もしかして学校内での西原くんも本当は寂しいんだろうか。


もっと色々な生徒と仲良くなりたいと思っているんじゃないだろうか。


この子猫と遊んでいるのと同じように。


そんな気がしてきた。


「損得って……?」


質問する声がかすれた。


西原くんに聞こえているかどうかもわからない。


それならそのほうがいい。


このままなにも聞こえなかったことにして、明日も明後日も、この特別な時間を続けて行きたい。


だけど、私の掠れ声は西原くんに届いてしまっていた。


「人って、勝手な思い込みを相手に押し付けるだろ」
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