極甘恋愛短編集
自分が1年生の頃はもっと警戒心を持っていて、人と距離を保っていた気がする。


入学してすぐの頃なんかは特にそうだ。


お互いにお互いを意識し合って、チラチラと様子を伺うような時がある。


だけどきっと徹にはそんな時期もなかったんだろう。


どんな人でも自分の懐に入れてしまうような、そんな雰囲気を持っていた。


「徹がイジメなんてあうはずがないか」


少しお風呂に入らなくたって、制服がシワだらけだって、徹の明るい笑顔といと懐っこい話術があれば大丈夫な気がしてきた。


「じゃあ、今日はもう帰るね」


寝ている徹にそっと声をかけて立ち上がろうとした、その時だった。


不意に徹の手が伸びしてきて私の腕を掴んだのだ。


ハッとして身を固める。


もしかして起きていたんだろうか?


だとしたらなんて恥ずかしいことを口にしてしまったんだろう。


そう思って一瞬顔がカッと熱くなる。
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