囚われのシンデレラ【完結】
「お父様、亡くなってからもう7年……?」
「そう。時が経つのは早いよね」
そう答えてから、窓の外に顔を向けた。少しずつ街に明かりが灯り始めている。
「……あの日のコンチェルト、本当に凄かったのにね。あずさがあずさじゃなくなったみたいな、何かが憑依したみたいな、恐ろしささえ感じるくらいの演奏だったよ。今でも簡単に思い出せる――」
「うん、まあ、昔のことだよ」
それに、たぶん――。
あの演奏は、私の実力だけで出来たものではないのだと思う。あの時だったから。特別な想いがあったからこその演奏だった。もう一度同じように弾けと言われても、おそらく出来ない。
胸の奥の奥にしまってあるはずの想いが鈍く疼く。
「……って、ごめん。こんなこと言っても仕方ないのに」
奏音がハッとしたように謝る。
「ううん、大丈夫。もう7年だもん。それに、家庭の事情で音楽続けられなくなった人なんて、いくらでもいる。私だけじゃない。バイオリンは今でも好きだよ。だから、いつか奏音のリサイタル行きたいな」
精一杯の笑顔を奏音に向けた。
あのコンチェルトのコンサートの日、お父さんが倒れたとの連絡が入って。急いで病院に駆けつけたときには、もう息を引き取った後だった。
虚血性心不全――突然死だった。
働き詰めだった。毎日、帰りも遅かった。無理な仕事もきっと引き受けていた。それは全部――私のためだ。私がバイオリンを学ぶため。私が父の寿命を縮めてしまった。