囚われのシンデレラ【完結】
「いらっしゃいませ――って、柊ちゃんか……」
私の勤務するイタリアンレストラン。リーズナブルな料金で美味しい料理が食べられるとあって、夕飯時はランチタイムに負けず劣らず戦争だ。カジュアルなレストランなため、一人でも入りやすい。
「おう、ちゃんと働いてるか?」
21時を過ぎた頃、サラリーマンをしている柊ちゃんが、スーツ姿で店のドアを開けて入って来た。
「また来たの?」
「それが客に対する態度か? それに『また』と言われるほど来てませんけど。今月まだ、4回目です」
「月4回くれば、十分多いと思いますけどね」
「ほんっと、かわいくねー」
「可愛くなくて結構です。こんなところに来ていないで、さっさと”可愛い”彼女でも作ったらどう」
こうして仕事帰りに、柊ちゃんはふらっと現れる。
「うるせーよ。こっちはね、毎日死ぬほど働かされて、出会いもねーんだよ」
「はいはい、分かりました。ではお席はこちらになりますが、よろしいでしょうか」
「態度がなってねーぞー」
棒読みになる定型文に、柊ちゃんがぶうぶう言っている。
「ご注文は」
「いつものやつ」
「かしこまりました」
父が亡くなった日、柊ちゃんはずっと私と母のそばにいた。そんな場面に立ち会ってしまったせいか、こうして今も変わらず私を気に掛ける。