囚われのシンデレラ【完結】
雲一つない青い空が、私を嘲笑う。
神様。どうして、私から何もかもを奪おうとするのですか――。
大丈夫だと笑いたい。
お願いだから。誰でもいい、否定して――。
総合病院の大きな玄関の自動ドアを通り抜ける。広がる青空と、ベンチが並ぶ敷地内の芝生が、私の視界をくらませる。
自分のものとは思えない身体で、自分の意思とは関係なく歩いている。誰かにぶつかり躓いたことにも、すぐには気付けなかった。
石のタイルが敷き詰められた地面に、しゃがみ込む。それを引き金に、他人のもののようだった身体が、一気に現実を思い知らせて来る。
『――お母様は、かなり心機能が低下している状態です。今すぐにも手術をしないと、この先いつどうなっても不思議ではありません。ただ、それがかなり難しい手術になり、限られた医師しか執刀できません。国内でもこのタイプの症例を扱っている医師は少ない。もちろん紹介状は書きますが、手術を待っている患者さんは多い。いつ、順番が回って来るのか――』
医者が言っていることの半分も理解できなかった。理解しようとしないのかできないのか。分からない。
お母さんまで私から奪わないで。お願いです――。
病院を訪れる人、帰る人、多くの人が行き交う場所なのに、身体から力が抜けて動けない。座り込んだ私を避けるように、人が通り過ぎて行く。
「――これ、あなたの物ではないですか」
俯く私の視界に、大きな手のひらが入りこむ。その手が手にしていたのは、パスケースだった。座り込んだ私のそばに、バッグが投げ出されていて。その中身が飛び散っていた。
「す、すみません……っ」
避けていく人の中で、一人私に声を掛けた人。
「ありがとうございます――」
慌てて顔を上げ、お礼を言う。
見上げた先にあったのは――。
「……西園寺、さん」
自分の唇がその名前を零す。自分の発したその名前に、激しく動揺する。私を見下ろすその目は、私を真っ直ぐに見ていた。
あの頃も私よりずっと大人に見えた。でも、今目の前にいる人は7年前よりずっとずっと大人の男の人になっていた。思いもしない突然のことに、私は何の反応も出来ないでいた。