囚われのシンデレラ【完結】

「父は亡くなったので……」

私がそう言うと、ここまでずっと表情一つ変えないでいた西園寺さんがその目を伏せた。

「――そうか。それは、余計なことを聞いた」
「い、いえ。もう何年も前のことですから」

そこで、再び二人の間に沈黙が流れる。

「さ、西園寺さんは今も、ホテルでお仕事されているんですよね」

話題を変えたくてそんなことを聞いてみた。でも、顎のあたりに手を置き何かをずっと考えているみたいで、耳に入っていないようだった。

「……あの人は?」
「あの人って?」
「君が”幼馴染”だと言っていた男だ」

『君』

その呼び方に、またも胸が痛んだ。

出会ったばかりの頃の呼び方――。

二人で過ごした時間全てを否定されたみたいな気持ちになる。

ああ、ダメだ。

私にとって、西園寺さんとのことは完全に過去の思い出になっていると思っていた。なのに、些細なことにいちいち反応して傷付くなんて。

「君が大変な状況なのに、彼は力になってくれないのか?」

どうしてここに柊ちゃんのことが出て来るのか。その言葉に何か違和感を感じるけれど、正直に答えた。

「柊ちゃん……彼には、まだ何も言っていないので。それに、これは家族の問題だから」
「――家族の問題……なるほど」

そう言ったかと思うと、突然西園寺さんが立ち上がった。

「大変なところ、時間を取らせて悪かった」
「あ、あの――っ」

テーブルの上にあった伝票をさっと手にすると、私に言葉を挟ませる隙もなく西園寺さんは私に背を向けた。

 その背中は、もう私の知っている西園寺さんのものではなかった。私に向けられた眼差しも、何もかもが別の人のようで。

私には大切な思い出でも、西園寺さんにとっては違うのだろうか――。

7年ぶりの再会は、あまりに悲しいものだった。


 それからの私は、思いつくいろんな機関や病院に相談したり、ネットで情報を集めたりした。それで分かったことは、手術の成功率はやはり医師の腕によるものだということ。手術にはそれなりの費用がかかること。入院が長期に渡ること。

 できる限りたくさんの症例をこなしてきた医師がいい。どの医師に手術をしてもらうかで、予後も、最悪命にも影響がある。病院で紹介してもらえる医師について自分でも調べ、場合によっては自分で探す足も必要になる。でも、私のような人間に、そんな伝手があるわけがない。

そんなこと言っていられない。とにかく、動かないと――。

時間との闘いで、心は今にも折れそうで。一人暗闇の中を彷徨っていた。

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