囚われのシンデレラ【完結】
勤務を終えてレストランの裏口から出ると、一気に疲労が肩に重くのしかかった。担当医から結果を聞いた日から一週間、何の進展もない。無為に時間ばかりが経って行く。
思わず額に手をやる。
ダメだ。しっかりしないと。お母さんに家族は私しかいないのだ――。
祖父母は既に他界しているし、唯一母の兄妹である伯父は、九州に住んでいて既に高齢だ。頼ることもできない。
身体中が重くて、引きずるように歩き出そうとした時だった。目の前に現れた人に、呼吸が止まる。
「西園寺さん……」
「君に話がある」
立ち尽くす私の前に、西園寺さんが一歩近づいた。西園寺さんと再会してからちょうど一週間。
どうしてこんなところに西園寺さんがいるの――?
ただ混乱する。
冷たく鋭い眼差しが私に向けられている。やはり、この違和感は拭えない。
以前の西園寺さんからは感じられなかった、冷たさ――。
率直に言葉を投げかけることはあっても、それは西園寺さんの真っ直ぐな感情だった。そして、そこには必ず温かさがあった。でも、今目の前にいる西園寺さんは、人を寄せ付けず人を受け入れない、そんな冷たい膜で覆われているみたいだ。
「話って、なんでしょうか」
恐る恐る問い掛ける。
「こんなところで出来る話ではない。ついて来てほしい。そう長い時間は取らせない」
「で、でも――」
西園寺さんには奥様がいるはずだ。そんな人と2人きりになるのは躊躇いがある。
「母親の命を救いたくはないのか……?」
その目がさらに冷たさを湛えて、私を射るように見つめた。