囚われのシンデレラ【完結】
「俺は、この先、誰も愛するつもりはない。それなのに今、結婚させられそうになっていて困っている。どうも、相手は俺のことを何年も一途に想っているみたいでね。そんな女と、愛せもしないのに結婚なんかしたら、不幸にするだけだ。何がなんでもこの縁談は阻止したい」
「そんな……」
「その点、君なら、俺が愛さなくても傷ついたりしないだろ?」
目の前にいる人の口から出て来る言葉は、どれも私の知っている西園寺さんとはかけ離れていて。ただでさえ頭の中は混乱しているのに、何から聞いたらいいのかも整理がつかない。
「それに、例えこの縁談は上手く断れたとしても、俺のような立場になればこの先も縁談はもたらされる。それがとにかくわずらわしい。結婚さえしてしまえば、もうそんな話もなくなる。それが、この結婚に対する俺の利益だ」
”この先、誰も愛するつもりはない”
冷たく言い放つその言葉は、一瞬にして私の思考を停止した。
「君に求めるのは、公の場で形式上の妻を演じてくれること。君は俺の家と釣り合いが取れていないなどという馬鹿らしい理由で、周囲から辛辣な言葉を投げかけられるかもしれない。でも、それは耐えてくれ。その代り、それ以外、一切妻としての役割など求めないし金銭的にも不自由させない」
その冷ややかな目を、私はどこか呆然としながら見ていた。
「お互いの利益が一致した、単なる契約だ」
突然再会して、想像すらしていないことを言われて。
「何か、質問は?」
理解できるはずがない。
「――まあ、今すぐ決めろというのは酷だな。ただ、君の母親の病状を考えれば早い方がいい。明日、またここに来る。その時に答えをくれ」
そう言い終えると、西園寺さんは私から視線を移し顔を前に向けた。
車を降りて、放心状態で立ち尽くす。頭に手をやり、目を閉じる。
ちゃんと、考えろ――。
私の知らない何かがある。私が過ごしていた7年間と、西園寺さんが過ごしていた7年間。胸に抱いていた感情がまるで違う。
どういうこと?
私は、何か、大きな間違いを犯したのか。