囚われのシンデレラ【完結】
私は一体、どうすべきなんだろう。
一体、どうすればいい――?
「――あずさ?」
昨晩、西園寺さんと別れてからずっと考えている。でも、考えても考えても、記憶や感情が複雑に絡まり合って混乱させる。
「あずさ!」
「え……あ、何? どうかした? どこか苦しい?」
白いベッドに横たわる母が心配そうに私を見ている。この日、仕事が遅番だったから、午前中に病室を訪れていた。
「どうかしたじゃないわよ。何度呼びかけても返事もしないし。どうしたの? 大丈夫?」
私が心配されてどうするの――。
「どうもしないよ。それより、お母さんはどうなの? 苦しくなったりしない?」
「大丈夫よ、それよりあずさ――うっっ」
「お、お母さん? 大丈夫?」
母が、突然胸を押えて身体を折り曲げた。その苦しそうな姿に、ナースコールをひったくるように押し続けた。
「――そろそろ決断された方がいいかもしれませんね」
医師の処置により落ち着きを取り戻し、母が寝ている間に主治医に呼ばれた。
「時間の経過とともに確実に悪くなって行きます。こういった発作の頻度も上がって行くことになりますから」
迷い悩む時間なんて、残されていないのだ。
「――分かりました」
躊躇いも、迷いも、全部捨て去る――。
今、目の前にある最善の救いの道を選べばいい。母の命が助かるのなら、例えその後に待っているのが茨の道でも立ち向かえばいいんだ。私が守るべきものを守る。
そして――。
車の中で見た、あの誰も寄せ付けないような冷えた眼差し。そして、7年前、私に見せてくれていた優しく包み込むような目を心の中に思い浮かべた。
今でも、鮮明に思い出せる。あの頃、西園寺さんが私に向けてくれた想いは、やっぱり消えてなくなったりなんかしない。現在も過去も、どちらも嘘じゃなく西園寺さんなのだ。
たった一人、心から好きになった人。別れた後も心の奥深くに棲み続けていた人――。
だからこそ、知りたい。
あの別れに西園寺さんには何があったのか、7年の間何を思っていたのか、知りたいと思うのだ。
「西園寺さんの申し出、お受けします」
仕事が終わりレストランを出ると、約束通り西園寺さんが待っていた。
「そう言うと思ったよ。賢明な判断だ」
「どうか、母を助けてください。お願いします」
西園寺さんを前に、深く頭を下げる。
「――分かった。約束は守る。最高の医療を受けられるように手配する」
「ありがとうございます」
これが正解なのかは分からない。
でも結局、私にはこの選択肢しかあり得なかった。それは西園寺さんにもお見通しだったのだろう。背筋が伸び、ぴんとして立つ西園寺さんの表情は一切揺らがない。
例え、もうあの頃の愛情を取り戻すことはできなくても、絡まった糸を解けるなら。愛のない結婚でも構わない。
母の命と、そして自分自身のために、私は再び西園寺さんといることを選んだ。