囚われのシンデレラ【完結】
5 悲しみの誓い
次の日、西園寺さんが病院にやって来た。
仕事の途中で抜け出して来てくれたのだろう、スーツをきっちりと着ていた。
まず、担当医に話をして、慶心大付属病院の大石教授に診察してもらい近々転院することになる旨を話した。
その時も、必要なことを無駄なく説明してくれる西園寺さんに、私は助けられっぱなしだった。
こうして誰かがいてくれることに、安心感が急速に込み上げてる。この一週間一人で向き合うことに、自分がどれだけ気を張り詰め不安だったのかを思い知る。
「本当にありがとうございます。自分一人では、きっとこんな風に事を進めることはできませんでした」
そう、西園寺さんに頭を下げずにはいられなかった。
「礼なんて言う必要はない。契約上のことを果たしているだけだから。自分の人生を投げ出すことよりは、よほど簡単なことだ」
そうか――。
西園寺さんから見れば、私は母のために自分の人生を差し出したことになるのだ。
「じゃあ、病室に行こう」
「は、はい」
いつ見ても、真っ直ぐに伸びたその背中を見つめる。
「お母さん、具合はどう?」
母の元へとまずは私一人で向かう。
「うん、もう何ともないよ。昨日は心配かけたね」
「調子がいいなら良かった。実は、今日はね、報告したいことがあって」
「何? 報告したいことって。なんだか、怖いわね」
ベッドの上で背を起こして座っている母が、訝し気に私を見る。
「怖いことなんかじゃないよ。あのね、私、結婚したいと思ってるの」
「……え?」
母が固まる。それも無理はない。恋人の気配のかけらもなかった私が、突然結婚だなんて言い出したのだ。
「こんな時に突然ごめんね。私、本当は付き合っている人がいたの」
上手く言えているだろうか。この顔は引きつってはいないだろうか。
「嘘……。そんな素振り全然――」
「それで今日、結婚の挨拶に、か……彼に来てもらってるから」
「う、うそ! どうしてそういうことを早く言わないのよ! 私、お化粧もしてない。服だって、病院服――」
わあわあと騒ぎ出す母をなだめる。
「お化粧って、入院していることは知っているんだしそんなの気にしないから。とにかく、会ってほしい」
「分かったから。もう来ていただいているんでしょう? 待たせてるのも申し訳ないし、早く呼んであげなさい」
「う、うん」
緊張する。
お母さんの前で、ちゃんと幸せそうにしないと――。
「西園寺さん」
病室の扉のところで待っていてもらった西園寺さんを呼ぶ。