囚われのシンデレラ【完結】
「初めまして、西園寺佳孝と申します。お休みのところに突然押し掛けて、申し訳ございません」
西園寺さんがお母さんに頭を下げる。私はその隣、一歩後ろに立った。
「あら……こちらこそ、こんな格好で……」
現れた西園寺さんの姿に、母がぽかんと口を開けていた。
「今日は、あずささんとの結婚をお許しいただきたく、参りました」
私も隣で頭を下げる。
「あずささんと交際し始めた当初からずっと、ただの恋人だとは思っていませんでした。私にとって、それ以上に大切な存在です。あずささんを支えたい、そして私に何の遠慮もなく甘えてほしいと思っていました。でも、恋人という立場では、あずささんは私にすべてを委ねてくれるわけではない。そのことにずっと歯がゆさを感じていました」
え――?
その言葉に、後ろから見える西園寺さんの横顔を見てしまう。
私の中の記憶が、何かを訴えかけて来る。それでもその記憶には分厚い霧のようなものがかかって、はっきりと思い出せない。
「最初から結婚を考えていました。ですから、お母様がこのような状況になった今こそ、夫婦となり家族となって一番近くであずささんを支えたいと思い、プロポーズいたしました」
その言葉が、この場を上手くこなすための台詞なのだということは分かっている。なのにどうして、こんなにも心は刺激されるのだろう。
「あずささんの幸せを一番に考え、守って行きたいと思っています。どうか、結婚をお許しください」
「お母さん、お願いします……っ」
お母さん、ごめんなさい。
嘘をついてごめんなさい。
でも、私には何の後悔もない。だから、どうか、許してほしい。
祈るように頭を下げた。
「――ありがとうございます」
頭上から、母の穏やかな声が聞こえて来る。
「父親が亡くなってから、あずさには無理をさせ頑張らせてしまっていました。そのことを分かっていながら、日々の生活に必死で、私はあずさに頼ってしまっていた。あずさは、笑顔の裏で一人いろんな感情をこらえてきたんだと思います。だから、どうか、思う存分甘やかせてあげてください」
母から発せられる言葉に、胸がじくじくと痛む。そんなことを言われたら、笑顔じゃいられなくなる。
「西園寺さん、娘のことをよろしくお願いします」
「お許しいただき、ありがとうございます」
深く頭を下げる西園寺さんからは、その表情は見えない。でも、その声は微かに強張っていた。