囚われのシンデレラ【完結】
病院の帰り、西園寺さんの運転する車に乗っていた。ハンドルを握っていた西園寺さんがちらりと私を見た。
「――君のお母さんも無事転院もして、あとは手術の日を待つ状態だ。申し訳ないが、できるだけ早く俺のマンションに越して来てほしい」
「……えっ?」
思わず声をあげてしまう。
「安心して。一部屋、十分な広さのある君専用の個室を準備する。それに、前にも言った通り、同じ家に暮らすだけで、君に妻の役割は一切求めない。家事も、身体も――」
「別に、不安になっているわけじゃありません」
一緒に暮らすことに抵抗を感じていると思われてしまっただろうか。そう思って、すぐに否定する。
「あくまで、一緒に暮らすのは、俺の家族にこの結婚を信じさせるため。それと、もう反対しても意味がないと思わせるためだ。俺の実家に挨拶に行く前に、同居を始めていたい」
「分かりました」
西園寺さんの実家――。
そこには、一度だけ会ったことのある妹さんもいるのだろう。
『兄にはここで会ったことを言わないでください』
そう言っていた。
彼女はきっと知らないふりをするに違いない。
「西園寺さん、お願いがあります」
「……何?」
前を向いて運転したまま、西園寺さんが答える。
「母の手術が終わったら、お時間いただけませんか? 西園寺さんと話したいことがあるんです」
母のことが安心できたら、ちゃんと西園寺さんと向き合いたい。腰を据えて話しがしたい。
「――話? 何の話だ」
「それは、その時、話したいです」
今それを言ってしまったら、拒絶されてしまいそうな気がして。だから口にすることが出来なかった。