囚われのシンデレラ【完結】
西園寺さんのマンションに引っ越したのは、それから一週間後のことだった。
案内されたマンションは、西園寺さんが以前住んでいた場所とは違っていた。あの時の部屋より少し狭い。とは言っても、庶民から見れば十分の広さを有している。高層マンションの最上階、設備は全て整っている。そして、グランドピアノはもう置かれていなかった。
「以前住んでいたマンションから引っ越したんですね」
ソファとテレビボードしか見当たらないリビングで、西園寺さんの背中に問いかける。
「この数年ずっと海外暮らしだった。帰国を機に自分で部屋を借りたんだ」
日本にはいなかったのか。
「――リビング、ダイニング、バスルームは自由に使ってくれて構わない」
「は、はい」
「週に3度、家政婦が来ることになっているから。君の部屋はこっちだ」
既にリビングを出て行こうとしている西園寺さんにろくに質問することも出来ず、慌てて付いて行く。
廊下を進み、いくつかのドアが並んだ一番奥、そこが私に与えられた部屋だった。西園寺さんに促されて部屋に入ると、12畳ほどはありそうな日の当たる明るい部屋だった。
「こんなに広い部屋、いいんですか……?」
「とりあえず、一刻も早く籍を入れたい。本当なら、親への了解など取らずに籍を入れてしまいたいところだが、いちおう俺も立場のある人間だ。順番だけは守ろうと思ってる」
部屋の広さに圧倒されている私に、西園寺さんがそう告げて来た。その言葉に、またも違和感を感じる。
「明日、俺の実家に行くからそのつもりで」
「は、はい」
本当に、一切の感情を必要としない事務的なやり取り。
一人残された部屋で、座り込む。そして、西園寺さんの言葉を考える。
親への了解など取らずに籍を入れてしまいたいって……。
以前、斎藤さんから聞いた。西園寺さんは厳しく育てられてはいたけれど、たくさんの愛情をご両親から受けて育ったと。それに、7年前、西園寺さんと一緒にいた時には、ご両親への負の感情なんて感じたことはなかった。
それなのに、さっき見せた西園寺さんのあの目――。
ご両親とは疎遠になっているのだろうか。