囚われのシンデレラ【完結】
あまり眠ることは出来ず、翌朝6時には目が覚めてしまった。
おそるおそるリビングダイニングに足を踏み入れる。そこに人の気配はなかった。
今日は土曜日だ。まだ西園寺さんは寝ているのかもしれない。なるべく音を立てないようにと、朝食の準備を始めた。
初めて台所を使う。当然、まだ自分の家だという感覚にはなれない。一つ一つの行動に緊張する。
朝食を作ったら、西園寺さんは食べてくれるのだろうか――。
そう思って、すぐに西園寺さんに言われたことを思い出す。でも、一人分だけ作るというのはどうしても躊躇いがある。
もし、食べてくれなかったとしたら、その時はその時だ。自分で食べればいい――。
そう決めて、冷蔵庫を開けた。昨日のうちに買っておいた食材を取り出した。
作り終えてから一人分を食べ、もう一人分にラップをかけておいた。まだ、西園寺さんが起きる様子はない。今のうちにと、洗面所を使うことにした。
洗面所から出ると、どこからか帰って来た西園寺さんと出くわして驚く。
「お出かけだったんですか……?」
玄関先からこちらへと進んで来る西園寺さんは、トレーニングウエアのような服装をしていた。髪形はいつもよりかなりラフだ。
「朝、週に何度かはマンション内のジムに行っている。そこ、もう使っていいか」
「は、はい。私はもう済みましたから」
慌てて洗面所のドアの傍から離れる。そんな私の横を過ぎ、西園寺さんは洗面所へと消えた。
ただそれだけなのに、鼓動が早くなる。こんなことで、同じ家に暮らして行けるのだろうか。ここ数年、男の人と同じ空間に2人きりでいたことなんて、柊ちゃん以外にいない。
自分の部屋で服を着替える。西園寺さんのご両親に会っても恥ずかしくない服。自分が持っている中で、一番高くて一番清楚に見える服を選び出す。
鏡の前でメイクと髪形、服装をチェックする。薄目のメイク、一つにきっちりと結んだ髪。ベージュのスーツの中には、ブラウスを着た。これで、少なくとも悪い印象は与えないはずだ。
強張る顔を無理やりに笑顔にして、覚悟を決める。
どう考えても、歓迎されない。西園寺さんには縁談がある中で、結婚の挨拶に行くのだ。