囚われのシンデレラ【完結】
緊張した足取りでリビングに足を踏み入れると、台所のあたりで何かを飲んでいる西園寺さんの姿があった。
「あ、あのっ」
慌てて声を掛けると、西園寺さんがこちらに振り返った。
「私、朝ご飯作ったんですけど。もしよかったら、いかがですか――」
「朝食は外で食べて来た。それに、そいういうことはしないでいいと言ったはずだ」
「……すみません」
リビングのドアの前から、一歩も進めないままで頭を下げる。
「でも、一人分の食事を作るのって結構大変で。自分の食事を作る時、どうしても多くなってしまうんです。それを食べるかどうかは西園寺さんにお任せしますから。西園寺さんが食べなくても、私が次の日に食べればいいだけなので。だから、つまり――」
もう、自分が何を言っているのか訳が分からなくなる。
「私は私で勝手に作ってもいいでしょうか……っ」
やけっぱちのように言いたいことだけを言った。
「……好きにすればいい」
「あ、ありがとうございます!」
少しの間の後、西園寺さんの声が返って来て思わず声を上げてしまった。
「……出かける準備は出来てるか?」
「はい。大丈夫です」
その表情は、どこか諦めたような呆れているようなそんな表情だった。でも、いつか、私の作った料理を食べてくれる日が来るかもしれないと思ったら少しだけ元気になれた。
「実家に行く前に、寄りたいところがある」と言われ、連れて来られたところは宝石店だった。
「婚約指輪と結婚指輪、好きなのを選んで」
突然連れて来られて選べと言われても、どうしたらよいのか分からない。だいたい、いくらぐらいのものを選ぶべきかも分からない。
「婚約指輪と結婚指輪とでは、デザインも違いますから。今は、婚約指輪と結婚指輪を一つにしたものを身に着けられる方もいらっしゃいますよ――」
「だったら、それで。一つで十分です」
店員さんにそう言われて、その言葉に飛びついた。
「この先、宝石はいくつ持っていても無駄にはならない。すみませんが、婚約指輪と結婚指輪、両方見せていただけますか」
隣に立つ西園寺さんは、私の意見などいとも簡単に無視して、店員さんにそう伝えてしまった。目の前に並べられる指輪たちに、くらくらとして来る。どうしてもこの目が先に行ってしまうのは、デザインよりも値札だった。
「……じゃあ、こ、これで」
店員さんが最近の人気のデザインだと言って持って来てくれた指輪の中で、一番安いものを指差した。私の考えていることなんてすぐに分ってしまったのだろうか。西園寺さんが小さく溜息を吐くと、私に言い放った。
「君はもういいよ。指のサイズだけをはかってもらえ。指輪は俺が選ぶ」
店内にあるソファの方へと追い払われてしまった。