囚われのシンデレラ【完結】
「――んっ」
両手で顔を挟まれて、荒っぽく唇をこじ開けられた。触れる舌が燃えるように熱い。一刻も早くと切羽詰まったように、激しく絡みつく。
”感情は一切残っていない”
それなのにこんなにも求められているように感じてしまうのは、きっと、お酒がそうさせているから。西園寺さんが、ただ、我を忘れるくらい酔っているからだ。
「あずさ……」
「――っ、あぁ」
飲み込まれるみたいに強く吸われ、きつくからみついていた熱く濡れたものが唇の中から出て行ってしまったと思ったら、それが耳元へと移る。
甘く食まれながら名前を呼ばれれば、切なく甘く、胸が疼く。
明日になれば、すべてがなかったことみたいに、消えてなくなる。
この瞬間だけでも、この腕の中にいられるならそれでいいなんて、心から思っている自分がいた。
その腕が強く私を引き寄せ身体をきつく囲う。
「あ……っ」
私の頭を覆い尽せてしまうくらいの手のひらががっしりと抱え込み、唇は耳を執拗に弄る。そのせいで、簡単に声を上げてしまいそうになる。
そんな自分がとても惨めになるのに、心の底から求めてしまう。
まやかしの温もりでも、本当にあたたかくて。西園寺さんの、吐息も体温も胸に伝わる鼓動も、甘く擦れた声も、全部本物だ。
それを全部、私だけのものにしたくて自らの腕を西園寺さんの首にぎゅっと巻き付けた。それに応えるように、私の背中に回されていた手に、より一層力が込められる。
次の瞬間身体がふわりと浮いて、壁へと押さえつけられた。
首筋から鎖骨へ、唇が滑る。
私の頭と背中を支えていた手が、服越しに身体をなぞる。服の皺の形を変えながら、ボタンを性急に外していく。露わになった肌に入り込んで来たその手は、酷く熱かった。
「……こんなに身体を冷たくして」
触れられる場所、どこもかしこも敏感になって言葉にならない。与えられる熱が、身体も心も刺激して苦しくなる。冷たさを拭うみたいに、手のひらも唇も私の身体を這う。そうしながら、西園寺さんが自分の上着もベストも過ぎ捨て、素肌が私を包んだ。
何かを忘れるための行為では、いくら肌を重ねてもきっと何も伝わらない――。
本当は、そんなこと分かっていた。なのに、こんな風に抱き締められたら、昔を思い出してしまう。あの頃のことを思い出すのは、毒なのに。どうしてこうも、心は言うことを聞かないのか。
「泣くな……そんなに、泣くな」
「泣いてなんか――っ」
私の頬に、何度もキスをして。目にかかる私の前髪を、西園寺さんがかき上げた。
「あまりに辛そうで、泣いてるみたいだ」
かきあげた手のひらがそのまま私の顔を包んで、その目が私を見つめる。
「俺のせい、だな」
今にも泣きそうな顔をしてるのは西園寺さんの方だ。眉をしかめて、眼差しは苦しげで。そんな顔で私を抱こうとしている。
「西園寺さんだって、辛そうです」
それは、私のせいですか――?
「もう、何も考えるな。快感だけに意識を向けろ」
「ぁ……っ」
ぬるりとした感触が、片方の膨らみの真ん中へと滑り落ちて行く。
もう片方に添えられた手のひらが、少しだけ強く覆い尽すように揉みしだく。手のひらの温かさと、指から与えられる先端の刺激、そして熱く濡れた舌が執拗に舐め続けるから、激しい疼きが身体の真ん中に集まる。