囚われのシンデレラ【完結】
6 募る想いは痛みを連れて来る
結局、そのあとすぐにマンションを飛び出してしまった。
何もなかったみたいに、魔法が解けたように冷たい目で見られるのが嫌で、私は西園寺さんから逃げ出したのだ。
夕方18時を過ぎた頃、スマホに西園寺さんの番号を表示させ意を決してスマホを耳に当てた。
(もしもし)
思っていたよりもすぐに繋がって、さらに緊張が増す。
「すみません、あずさです。今、話しても大丈夫、ですか?」
(ああ)
いつもと変わらない、低く落ち着いた声。余計に自分の胸の鼓動が耳障りになる。
「年末年始は、ご実家に帰りますか?」
(毎年、この時期は両親は旅行しているから帰らないが、それが何か?)
スマホの向こうから訝しげな声が聞こえて、口早に言葉を繋いだ。
「あの、それでしたら、私はこの年末年始母といてもいいでしょうか。一般病棟にも移るので、なるべく一緒にいたくて。それに、アパートの様子も気になるから」
西園寺さんと顔を合わせることに恐怖を感じる。少し時間が欲しい。
(……そうだな。お母さんも君といた方が気分も優れるだろう。こっちのことは気にしなくていい)
少しの間の後、ほんのわずか柔らかくなった声が耳に届いた。
「勝手を言って、すみません。じゃあ、また」
通話が切れたあと、無意識のうちに大きく息を吐いていた。
こうして電話で話すだけで、こんなにもエネルギーを使っている。マンションに戻り、再び西園寺さんとの生活を始めるとき、私は普通にできるのだろうか。
今はまだ、考えたくない。スマホをポケットに戻し、母の病室へと戻った。