囚われのシンデレラ【完結】
――と、ほとんど衝動的にアパートに連れて来てしまった。
「す、すみません、狭いところで。その辺、適当に座ってください」
小さな玄関の脇にはすぐに狭いキッチンがあって。和室が3つほど隣り合っている狭いアパートだ。居間として使っている6畳の和室には、こたつとテレビがある。
「――お邪魔します」
古い造りの年季の入った床は、歩くだけでミシミシと言う。
すべての部屋が小ぶりのこの家で、背の高い男の人が一人いるだけでこんなにも小さく感じる。柊ちゃんが何回か来たことがあるのに、その時とは違う圧迫感がある。これは物理的なものから来るのか、精神的なものから来るのか。とにかく、緊張してしまう。
「どうぞ、どうぞ。寒いですよね。今、ヒーター入れますから」
とにかく沈黙の時間を作りたくなくて、一人喋り、動き続ける。
物珍しそうにきょろきょろと見渡しながら西園寺さんがこたつの前に座った。その光景が、どこか信じられない。
それに、視覚に訴えて来る違和感――この、庶民のかたまりみたいな部屋と、西園寺さん。組み合わせの違和感がものすごい。
和室に、こたつ。
もしかして、西園寺さん、こたつを知らない――?
西園寺さんは、こたつ布団の中に足を入れずに座っていた。
「あの、こたつ、見たことないですか?」
こたつの電源を入れて、視線をあちらこちらへと動かしている西園寺さんにたずねた。
「ああ……いや、知ってはいるんだけど、実際に見たのは初めてだ」
「布団の中に足を入れてください。そうしたら暖まりますから」
「さすがに、ここに足を入れて温めることくらい知ってるよ」
そう言って、西園寺さんが少し笑った。
あ……。
西園寺さんが笑った顔を久しぶりに見た。
「……ん? どうした?」
見逃したくない。なんて思って、ついじっと見つめてしまっていた。
「い、いえ。じゃあ、そば、準備して来ますから。テレビでも観ていてください」
どくどくと激しく動く鼓動が甘い痛みを与えて来る。
本当に、もうどうかしてる。触れたわけでもない。こうして同じ空間にいるだけで、全身に神経が張り巡らされているみたいだ。
台所に立ち、鍋に湯を沸かす。テレビの向こうの会話が流れて来る。その音で心臓の音を掻き消してくれそうで、ほっとする。
食べるあてもなかったのに買ってしまっていた年越しそばを、冷蔵庫から出す。素早く沸騰している湯に通し、茹でた。