囚われのシンデレラ【完結】
「俺は自分の部屋にいるから、ゆっくり選んで。では、よろしくお願いします」
「あ、あの――っ」
西園寺さんはさっさと出て行ってしまった。
「では、選んで行きましょうか」
そう言って、にこやかなお店の人が、たくさんのドレスをリビングに並べ出した。
凄い――。
色とりどりのドレスが並ぶ様は圧巻で、年齢のことは忘れて自分がお姫様にでもなったような気になって来る。
「奥様は、とても色白でいらっしゃるので、淡い色も濃い色のものもお似合いになりますよ。どういうデザインのものがお好みですか?」
そう言われても困ってしまう。私にとってドレスと言えば、学生の頃に演奏会用に買ったドレスくらいなものだ。
当時は、とにかく安くてシンプルなもの――そういう視点でしか選んでいない。
だいたい、パーティーなんて行ったことがないのだ。どういうタイプのドレスを選べばいいのかさえ分からない。
「あの……仕事関係で出席するパーティーって、皆さん、どんなドレスを着るんでしょうか」
お店の人なら詳しいだろう。そう思って聞いてみた。
「ここにお持ちしているものなら、どれでも大丈夫ですよ。事前に、西園寺様に選んでいただいているものなので、確かです」
「西園寺さんが選んでくれていたんですか?」
「ええ。昨日のうちに来店してくださいましたから」
並べられたドレスを改めて見回す。
濃い色のAラインのドレス、淡い色の裾が広がったドレス――どれも、シックで上品なデザインのものだった。
「もし、お決めになれないのなら、いっそのこと西園寺様に選んでいただいたらどうですか?」
「えっ……」
「ここにあるものも、選んでくださっているんですから」
「そう、ですね」
その方がいい気がする。会社関係のパーティーに行くのだ。西園寺さんが一番いいと思うものを決めてもらおう。
「――すみません。ちょっといいですか?」
西園寺さんの部屋のドアを恐る恐るノックする。
「どうした? もう選んだのか?」
「すみません、自分では選べなくて。あの中から西園寺さんが一番いいと思うものを選んでくれますか?」
「好きなのを選べばいいんだ」
「どれも素敵で、選べないんです」
そう言うと、ふっと息を吐き、少し呆れたように「分かった」と言ってくれた。
西園寺さんは、リビングで素早くその中から3着を選び出した。それは、どれも違うデザインの3着だった。