囚われのシンデレラ【完結】
濃紺のベルベットのような生地でできたスレンダーなシルエットのドレス。光沢のあるワインレッドのAラインのドレス。スカート部分にボリュームがある淡いオリーブグリーンのシフォンのドレス。
どれも、袖のないロングドレスだった。それぞれにタイプは違う。シンプルだけれど、生地の上質さがゴージャスに見せるもの、胸元から裾まで、ふんだんに装飾が施された煌びやかなもの。そして、一つは淡い色が可愛らしいデザインのもの……。
「3着も必要でしょうか――」
「これから人前に出て行く機会も多い。これでも少ないくらいだ」
一蹴される。
私にはよく分からないけれど、仕事関係のパーティーに出席するのに、裾の広がったドレスなんて必要なのだろうか?
「着てみたらどうだ?」
「そうですよ。サイズを少し見てみましょう。お直しが必要になるかもしれません」
そう言われて自分の部屋に戻る。着てみて、鏡の前に立った。
すごく素敵――。
身体のラインを綺麗に見せる、仕立てのよいドレス。自分まで格上げされたような気持ちになる。
「素敵ですよ。本当によくお似合いです。さすがご主人様のお見立てですわ」
着るのを手伝ってくれたお店の人が、にっこりとして私を見る。
そして、西園寺さんの待つリビングへと向かった。
「――どう、ですか?」
「素敵ですよね。どうですか、西園寺様」
西園寺さんはどう思っているだろうか。恐る恐るその顔に視線を移す。
「あ、ああ。いいよ。とてもよく似合っている」
「……良かった」
西園寺さんがそう言ってくれるなら安心だ。
結局、その後、残りの2着も着せられた。3着のうち2着はサイズ直しが必要とのことでお店の人が持ち帰った。
値段は――分からない。
こういう購入方法がどういう仕組みになっているのか知る由もない。少なくとも、財布を出したりしている姿は見ていない。
「3着も買っていただいて、ありがとうございました」
リビングに2人になって、西園寺さんにお礼を言った。
「必要だから買ったんだ。お礼より、この先も、必要なくなるまではちゃんと持っていてほしい」
「はい、もちろんです。大事にします」
「それと、君に言っておきたいことがある」
西園寺さんが、少し表情を変えて私を改めて見た。
「俺の家族だが、この先、上手く付き合おうなどと考えなくていい。俺の親はいないものと思ってくれ」
「そんな――」
「分かっているだろ? 向こうが君を受け入れるつもりがないんだ。こっちも、相手にする必要はない」
「でも、西園寺さんのご両親ですよ? そんな言い方は……」
「必要ないと言っている。この先、家族に限らず、他の誰に何を言われても一切無視しろ。もし、俺がいない間に誰かが何かを言って来たりしたら、すべてすぐに俺に報告するんだ。いいな?」
厳しい表情は、肯定以外は認めないと訴えて来る。
「分かりました」
ここでは、私には西園寺さんしかいないのだ。西園寺さん以外に頼れる人はいない。