囚われのシンデレラ【完結】
1月ももう終わりに近付いていた。
朝、西園寺さんを送り出して、エントランスから戻って来た。キッチンとダイニングテーブルの片付けを手早く済ませる。それから、掃除をしようと洗面所に向かった。
洗面台の上に、スマホが置かれていた。西園寺さんのものだ。スマホがないなんて、困るに決まっている。
届けた方がいいよね……。
いきなり行くのは少し躊躇われて、会社に電話してみることにした。
そうすると、西園寺さんではない人に電話が繋がった。
(もしもし、こちら西園寺常務室でございます)
「す、すみません。西園寺の妻ですが――」
緊張のあまりたどたどしく言うと、すぐに言葉が返って来た。
(奥様、ですか。斎藤です)
斎藤さん――。
先月、斎藤さんと話した時のことがまざまざと蘇る。
(ただ今、西園寺常務は来客中ですが。どうされましたか)
「あ、あの、しゅ……主人がスマホを家に忘れてしまったみたいで、どうすべきか聞きたくて電話しました」
そう一息に言うと、少しの間の後、声が届いた。
(それは、常務もお困りになると思いますので、もしご都合がよろしければこちらまで届けていただいた方がよろしいかと)
「そ、そうですよね」
仕事にも支障が出るかもしれない。
(常務室にお越しいただければ、常務が不在でも秘書がおりますし、常務をお待ちいただくこともできます)
「分かりました。うかがいます」
ただ、スマホを届けるだけ。それだけのことだ。