囚われのシンデレラ【完結】
西園寺さんが働いている本社ビルにやって来た。ここに来るのは二度目のことだ。
大きなエントランスをくぐり総合受付に向かって歩いていると、突然声を掛けられた。
「お待ちしておりました」
受付にたどり着く前に私を呼び止めたのは、斎藤さんだった。
電話を切った後、わざわざここで待っていたのだろうか――?
「――では、常務室までご案内いたします。こちらです」
表情一つ変えない。
「あ、あの、西園寺さんは――」
「常務室でお待ちになっていれば、すぐに戻られると思います」
「そうですか……」
西園寺さんに会えると分かって、少しホッとする。
いくつもエレベーターが並ぶホールから、ドアの開いたエレベーターに乗り込む。
出勤の時間帯は過ぎていると思うけれど、大きな会社だからだろうか、人の行き来は激しい。エレベーターには、他にも人が乗り込んで来た。
エレベーターは途中、数フロアに止まった後、目的地へと私たちを運んだ。
「――こちらが、西園寺常務の執務室になります。そちらのソファでお座りになってお待ちください」
そう促されて、革張りの茶色のソファに浅く座る。つい、部屋を見渡してしまう。
大きな窓ガラスを背にして、立派な椅子とデスクがある。両脇には天井までのキャビネットと本棚があつらえてあった。
西園寺さんは、毎日ここで仕事をしているんだ――。
大きめのデスクの上には、ファイルや本のようなものが積んであった。
「ご挨拶が遅れました。西園寺常務の秘書をさせていただいております。よろしくお願い致します」
きょろきょろと視線を動かしていたら、座る私の傍に来て斎藤さんが頭を下げた。儀礼的な言葉と態度が、私をより委縮させる。慌てて立ち上がり、私も頭を下げた。
「こ、こちらこそ」
先日は、あんな会話をしておいて、それをおくびにも出さない。7年前の私が知っている斎藤さんは、もうどこにもいない。
「……7年前、斎藤さん、おっしゃっていましたよね。この先もずっと、西園寺さんの側にいて力を尽くすって。本当にそうなったんですね」
あの時、『君と僕は佳孝を支える仲間でもある』とも言ってくれた。
「私がここにいるのは、西園寺常務をお支えするためです。常務がセンチュリーのトップに立つためなら、私はなんだって出来ますよ。私なら、どんなサポートも出来る」
この人は、小さい頃からずっと西園寺さんの傍にいた人――。
その目が私を鋭く見る。
「あなたよりもずっと」
鋭く光るその眼差しは、私にだけに向けられる。