囚われのシンデレラ【完結】
「どんな目的で、どんな手を使って常務と結婚にこぎつけたのか知りませんが、人は必ずいるべき場所に戻る。そうなるようになっている」
――いるべき場所に戻る。
「あなたも、自分のいるべき場所に戻るべきでは? それがお互いのためだ」
斎藤さんは、西園寺さんから離れろと言っているのだ。
どうせ、そのうち捨てられる。そして、私では西園寺さんに相応しくない。何の役にも立てない――。
でも。もう間違えたくない。
「私は、西園寺さんのそばにいます。西園寺さんがはっきりと私に必要ないと言うまでは、私から離れたりしません」
ぎゅっと手を握りしめる。
「私はあの人の妻です。私が耳を傾けるべき人は、西園寺さんだけです――」
「一体、ここで何をしてる?」
そう言い放った時、突然、扉が勢いよく開いた。そこに現れたのは西園寺さんだった。
「お戻りは、午後の予定では?」
斎藤さんの表情が一変する。
「何をしてると聞いているんだ」
西園寺さんが扉からの方から大股でこちらへと来る。少し肩が上下していた。
「こちらにいらした奥様を常務室に案内し、話をしていただけです」
「話……? おまえとあずさが、何の話をする必要がある?」
「奥様に話しておくべきことを話したまでです。そうですよね? 奥様」
そのどこまでも冷たい眼差しに、心も身体も硬まる。
「どうして、あずがこんなところにいるんだ? どうして社に来たりした」
私にその視線が移る。西園寺さんの声に肩をびくつかせてしまう。
――あなたが妻だということを公にはしたくない。
斎藤さんの言葉がふっと浮かぶ。
西園寺さんは、勝手に会社に来たことを怒っている。
そう思ったら、西園寺さんの迷惑になるようなことをしてしまったのかと怖くなる。
「私は――」
西園寺さんの視線が私に注がれた後、斎藤さんに向けた鋭い声が部屋に響いた。
「斎藤は下がれ」
「……では、失礼いたします」
少しの間の後、斎藤さんが頭を下げ部屋を出て行った。この部屋に西園寺さんと2人になる。
「声を荒げて悪かった」
私の隣に腰を下ろした西園寺さんが、その声を和らげて私の顔を覗き込んだ。
「君が社に来ていると知って、それに遥人といると知ってつい慌てた」
そう言う西園寺さんは、よく見ると少し髪が乱れていた。
「あいつもいない。落ち着いて、ちゃんと話をしてくれ。どうしてここにいるのか。何を言われたのか」
私の様子を見て、斎藤さんを部屋から出してくれたのだろうか。
斎藤さんがいたら、私が言いたいことを言えなくなると思って――。
「私の話を、信じてくれますか……?」
「遥人は君のことをよく思っていないからな。あいつの話より、先に君の話を聞きたいと思ったんだ。2人で話したい」
斎藤さんは、私に対して怒りがある。親友を傷付け裏切った女だという目で私を見ているのだ。