囚われのシンデレラ【完結】


 たまたま観ていた夕方のニュース番組に、西園寺さんが出ていた。突然現れたその姿に、画面の前にへばりつく。

何かの対談だろうか。

『世界展開している日本最大のホテルグループ、センチュリーホテルズコーポレーションの若き未来のトップ』

そう紹介され、女子アナウンサーと広いホテルの部屋のようなところで話をしていた。西園寺さんの背の向こうの大きな窓には、都会の景色が広がっている。

 いつもと同じ、仕立てのいいパリっとしたスリーピースのスーツが、西園寺さんのために作られたかのように馴染んで。頭のてっぺんからつま先までを覆う生まれの良さのオーラのようなものが、画面越しでも伝わって来る。

「西園寺さんは、このたび常務取締役に就任されたということで、経営企画部門の実質的な指揮管理をされているとうかがいました」
「はい。社長の補佐という立場にもありますので、社長の意思を汲み、最大限の利益を生み出せるよう、日々知恵を絞っています」

揺らぐことのない真っ直ぐな視線、精悍であり清廉さも併せ持つ顔立ち、よどみのない言葉。

結婚していると聞いても諦めないという縁談相手の方――。

諦められないのも無理はないのかもしれない。

「実際、西園寺さんは、常務に就任される前、経営企画部の部長をされていましたね。その際には、既にホテル業界国内トップでありながらさらに収益を大幅に増加させたとあって業界内で驚かれていました」
「トップであるからこそ、常に挑戦者の気持ちでいなければ、落ちて行くのはあっという間です。特に、ホテルの仕事の基本は接客です。お客様と接する中でダイレクトにこちらの思いが伝わります。まずは本社、経営陣が率先して謙虚である姿勢を持っていなければなりません――」

それから10分ほどして、画面がスタジオに切り替わった。

「お話させていただいて、30歳という若さながら、しっかりとしたビジョンと厳しさ持っていらっしゃる有能な方だということがよく分かりました」

対談していた女子アナウンサーが話をしている。

「それにしても、素敵な方ですね」
「本当にそうなんですよ。まさに、センチュリーのプリンスですね」

スタジオにいるアナウンサー2人の会話を聞いて、テレビを消した。

画面越しの姿でさえ、この鼓動を早くさせる。

 せめて、これが初めての恋だったらよかった。過去に、西園寺さんに深く愛された記憶が心にも身体にも残っているから、余計に辛いのだ。
 そして、想いさえ伝えられないことが私の心をがんじがらめにする。
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