囚われのシンデレラ【完結】
「すみません、私――」
「いいよ。女同士で飲むなんていうのは、いろいろ辛いことを吐き出す場なんだから」
いい大人がこんなところで泣くのはみっともないと分かっているのに、涙が堪えられなくなった。
手の甲で乱暴に目を擦る私の背中を、木藤さんがぽんぽんと撫でる。
「何が苦しいのか分からないけどさ。それを全部、伝えてみたらどうかな。一番近くにいる人が苦しんでいると思ったら、耳を傾けてくれるでしょ? 西園寺さんなら絶対」
その手のひらが、余計に私の心を弱くさせて。堪えるどころか溢れてしまいそうになる。
「こうなったら、もっと飲む? 飲んで今日は騒いじゃう?」
そんな木藤さんのサバサバとした優しさが嬉しくて。だから、子どもに戻ったみたいに、うんうんと頷いていた。
「飲みたい。飲んで騒ぐのなんて初めてだから」
「よし」
涙でぐしゃぐしゃになっているだろう顔で笑ったら、「酷い顔!」と木藤さんが笑った。
真冬の中、温かな熱気に包まれた居酒屋の、生ビールと日本酒と。どれもが美味しくてどれもが毒だった。
「楽しいです。ホント、お酒ってこんなに楽しいものだったんだー!」
意味もなく手を振り上げてみる。
「うわっ。あずささんって、飲むとこんなになるんだ……。可愛いなぁ。色白のほっぺがピンク色で。これは、男心をくすぐるね」
「本当に? 西園寺さんも?」
「絶対。間違いない。っていうか、もう十分あなたのこと大好きでしょ――」
「崖から飛び降りるつもりで、襲い掛かってもいいですかね?」
「だーかーら、崖から飛び降りなくても平気だから」
「いっそのこと、思いっきり拒否された方がラクかもしれない……」
「……まったく」
今度は眠気がやって来た。身体に力が入らなくなって、テーブルに突っ伏す。
「本当に、西園寺さんのことが好きなのね」
「西園寺さんは、ずるいんですよ」
重くなる瞼の向こうに、あの顔が浮かぶ。
「冷たくするのに、本当は優しいことしたりして。関係ないと言いながら、放っておかない。それで、どうして、すきにならずにいられるの……?」
――この先、誰も愛するつもりはない。
「さいおんじさんは、ずるい。わたしだけ、こんなにさいおんじさんで、いっぱいに、して――」
「ちょ、ちょっと? 寝ないで――」
「ずるい……」
「ねえ、ちょっと、起きて――」
だったらもう、7年前に時間を戻してほしい。
そう願いながら、夢の中へと落ちて行く。