囚われのシンデレラ【完結】
「――大丈夫か?」
大丈夫です――。
むしろ、身体に心地よい振動を感じる。多分、車の中だ。
いつの間に、車に乗せられていたんだろう――。
「きとうさん、ごめんなさい」
申し訳ないと思いつつ、すぐ隣にある腕に身体を寄せてしまう。
「ちょ、ちょっと待て、俺は――」
「もう少し、このままで。ごめんなさい……」
その腕に自分の腕を絡ませて頬をすり寄せる。いつもならこんなことするはずないのに、誰かに甘えてしまいたくなる。
お酒の力は凄いな、なんて、他人事のように思っていた。
木藤さんも私と同じくらい酔っているはずだし、きっと許してくれる――。
身体に感じる振動がなくなるまで、その腕は私の手を振り払わずにいてくれた。
「ほら、あと少しで部屋だから。しっかり歩いて」
車から降ろされて、私の肩を支える腕――。
まだ身体も頭もふわふわとする。視界もゆらゆらとして。どこに力を入れればいいのか分からなくて、上手く歩けない。緩慢になってしまう動作で見上げると、そこにいたのは西園寺さんだった。
「……さいおんじ、さん? 木藤さん、は――」
一瞬にして素の自分が戻って来る。
「君が眠ってしまったと、木藤さんが俺に連絡をくれたんだ」
「わたし、む、かえに、来させて……す、すみませ――わっ」
「お、おいっ、危ないだろ」
意識は素に戻ったところで酔いにまみれた身体には違いない。思い切り頭を下げようとしてぐらついた身体を、西園寺さんが抱き留めた。
今日は、躊躇いなく私に触れてくれるんだ――。
この身体を囲う腕の感触に、そんなことを思ってしまった。
お願い、今日だけ。
ずるいのは分かっている。
でも、お酒の力を使わせてください――。
そのまま西園寺さんの首に腕を巻き付けた。そして、ふりほどかれないようにきつく力を込める。
「――あずさ?」
ただの、酔っ払いだから――。
西園寺さんの身体にしがみつく。
西園寺さんが、ふっと息を吐いたのが分かる。
「ちゃんと、掴まっていろ」
そのまま身体が宙に浮く。抱き上げられたのだと分かった時には、西園寺さんはもう歩き出していた。