囚われのシンデレラ【完結】
7 夢のあとに
ひとしきり抱きしめた後、幼い子供のようにしがみつく身体を抱きかかえ、あずさの部屋へと運ぶ。そして、そっとベッドに横たえた。
「あずさは、酔うと子どもみたいになるんだな」
やっと開いているような重そうな瞼。
本当に、泥酔を絵に描いたような酔い方だ。
大人だから酒に頼りたくなる。だから余計に、酔って幼くなる様が痛々しかった。
「――わたしは、子どもじゃないですよ」
横たわるあずさを見下ろしていると、怪しい呂律の言葉がこぼれた。
「大人だから、西園寺さんを誘惑したい」
その目に熱が灯り潤んでいるような気がするけれど、それもアルコールのせいだろう。
「誘惑?」
「そう。わたしが、あなたを、誘うの」
さっきまで子供みたいにしていながら、突然女の目で見上げて来る。あずさの手が俺に伸びて、頬に触れた。
「ここには二人しかいない。わたしは、酔ってる。大人だから、そういう雰囲気になることもあるでしょう?」
頬にあたるあずさの指の感触が思考をぐらつかせる。
「俺も男だ。こんな風に誘われたら、間違いを犯すかもしれない」
「いいよ。だって、わたしが、誘惑しているんだから。間違いでもいい――」
潤んでいる目は、今にも泣きそうで。
まだ零れてもいない涙を溢れさせたくなくて、思わずあずさの頬に指を滑らせてしまう。触れてしまえば、胸が突き動かされる。
「あずさ――」
間違い――。
誰かの代わりだとしても、あずさの寂しさを埋められるのなら。
そう思いながら、一方で、何より俺があずさに触れたい――。
薄く開いた唇に、顔を近付ける。今にも重なるその時、堪えるように目を硬く閉じる。
”苦しいんです”
あずさの声が脳裏に過る。
「――何もかも、あずさが酔っているせいにしてしまいたいけど、やめておくよ」
「西園寺さん……?」
「今日は、もう寝てしまえ。水でも持って来よう」
辛いと言ったあずさに、これ以上後悔や苦しみを与えるようなことはしたくない。
あずさの白い頬は酷く熱かった。
でも、すぐにその頬から手を離す。
苦しくてどうしようもなくて、酔わずにはいられない。そういう時があることは、俺にも理解出来る。
一瞬にして、あの夜のことが思い出される。もう同じ過ちは犯したくない。
これ以上、あずさに心と身体が乖離したことをさせたくない――。
あの日の、押し潰されそうな後悔が蘇る。