囚われのシンデレラ【完結】
それからの日々は地獄だった。
縁談の日程は勝手に決められ行動は制限された。毎日のように家族から「家と会社を見殺しにするのか」と罵られ、終いには「お願いだから折れてくれ」と泣かれた。
あずさのことを調べろとまで言った父親が何をするか分からない。
あずさにとって今がどれだけ大事な時期か。コンチェルトで成功出来れば、その先の道が大きく開かれる可能性がある。あずさの大きな夢の第一歩になるのは間違いがない。そんな時に、俺の家のごたごたに巻き込むわけにはいかなかった。
俺が動けば、その分相手に情報を与えてしまうことになる。自分のスマホをすら安易に使用することが出来なかった。
尊敬していた自分の父親さえ信用できなくなって。心が擦り減り始めていたちょうどその時、加藤柊が俺のところに乗り込んで来たのだ。
加藤柊が帰った後、遥人が言った。
「――これで分かっただろ? あの調査結果が本当だということ」
「あれは、あの男が言っていたことであって、あずさが言った言葉じゃない。あずさに会って話をするまで他のことは信じない」
自分にそう言い聞かせているのもあったかもしれない。強がりもあったかもしれない。
初対面のあの男が、何を考えどうしてこんなところにやって来たのか――。
その意味を考えるとどうしようもなく不安になった。でも、あずさを信じたかった。
「……おまえ」
呆然としたような表情をした後、遥人が息を吐いた。
「……分かったよ。これだけ言っても分からないって言うなら見せるしかないな」
そう言うと、遥人が何かの写真を並べ始めた。
あずさと男が抱き合う写真――。
言葉じゃない。視覚で訴えて来る力は思っていた以上に大きかった。
でも。
”西園寺さんのことが好きです”
ああ言った時のあずさの顔は、演技なんかじゃない。
「これも、これも、この写真も。どれも、親密さが表れてる。ただ抱き合っているだけとは思えない写真もある――」
「何度言ったら分かるんだ。あずさは人を騙すような女じゃない。それは俺が一番分かってる」
その写真から離れると、遥人が俺の肩を勢いよく掴んだ。
「おまえ、正気か? たかが半年程度の付き合いで、何が分かるって言うんだ? そんなに簡単に他人の心のすべてを知ることができるとでも思ってるのか。どれだけ、あの子に溺れてるんだよ。お願いだから、目を覚ましてくれ……っ」
俺の両肩を掴む手のあまりの強さに、思わず呻きそうになる。
「なぁ、佳孝――」
「好きなんだ」
目の前で項垂れる親友には、分かってほしかった。たとえ周囲の人皆に馬鹿だと言われても理解してほしかった。
「佳孝……」
俺の両肩に縋るようにして俯いていた遥人が、顔を上げて俺を見る。その時の絶望したような目に、これまでの遥人との時間を思うと心が痛んだ。でも、どうしてもあずさを疑うことなど出来なかった。