囚われのシンデレラ【完結】
8 たどり着いた譲れない想い
3月。寒い日と温かい日が交互に来て、季節の変わり目を感じるようになった。
「わざわざ迎えに来ていただいて、ありがとうございます」
この日、西園寺さんに一緒にコンサートに行こうと誘われて、マンションに細田さんが車で迎えに来てくれたのだ。
平日だったこともあり、会場に直接来るようにと言われていた。
「お仕事とは関係ないのに、すみません。私、一人で行けるのに……」
後部座席からもう一度頭を下げる。西園寺さんが細田さんに指示をしてマンションに迎えに来させたようだ。
「いいんですよ。常務をお送りするか奥様をお送りするか。その違いだけですから」
細田さんがここに来てくれている分、西園寺さんは自分で会社から会場に向かうことになってしまうのか。
それもそれで申し訳ない。
「それより、お二人で待ち合わせとは仲がよろしいことで。羨ましいです」
「い、いえ……」
突然だった。
昨日の朝、『バイオリンコンチェルトのチケットが手に入ったから一緒に行こう』って私を誘ってくれたのだ。
二人で、用事以外で出かけたことなんてなくて。嬉しいよりもまず驚いた。
一緒にコンサートに行くなんて、まるでデートみたい……。
なんて思ってしまって、頭をぶるぶると振る。
仕事の関係でたまたま手に入ったから。
西園寺さんも音楽は好きだし、私はバオリンを弾いている。
だから、誘ってくれたんだ。二人で行くのが合理的だ。
とは言え、やっぱり嬉しくて、ついついお洒落してしまった。気合が入り過ぎたかと今度は少し心配にもなる。
「最近、常務はお疲れのようなので。私としても、息抜きをしていただきたいと思っていたんです。ですからぜひ、楽しんで来てくださいね」
最近、また西園寺さんはかなり帰りが遅くて、朝しか顔を合せていない。顔を合せると言っても、朝ではそんなに時間はない。
仕事、大変なのかな――。
流れゆく車窓を見る。
『私の誕生日に、お願いを聞いてください。それが何であろうと聞いてほしいんです』
そう、西園寺さんにお願いをしたら、まさかの承諾をもらえた。
その日、私は決心をしたのだ。