囚われのシンデレラ【完結】

 それに、西園寺さんの縁談だ。
 自分の置かれた立場が心許ない。愛されている関係じゃないと分かっているのに、たまらなく嫌なのだ。

 もしこの先、西園寺さんにこの関係を解消しようと言われたら――言想像するだけで身を切られるみたいに辛い。

 どうせもう愛された日々は戻らない。私の言葉を信じてもらうことはないのだと諦めて来た。

でも、誤解を解かないままで離れてしまう日が来るようなことがあったら――。

その時私は、仕方がないと諦めてしまえるだろうか。本当に、それでいいなんて思えるはずがない。

 縁談がどうなっているのか聞いてみようか。そう思ってやめた。一度、その話は西園寺さんとしたのだ。信じると決めた以上、聞く必要はない。

 私がしなければならないことは、ちゃんと西園寺さんに話を聞いてもらうことだ。

 すべてを諦めることが出来ないくらいに、西園寺さんのことを想ってしまった。

 自棄になって泥酔して、誘惑しても結局あしらわれて。消えてしまいたいくらい落ち込んでも、西園寺さんのことで一杯になる。この想いが消えることはないんだと思い知らされた。

 西園寺さんが過去を誤解しているということを分かっているのは、私だ。西園寺さんではない。私が諦めたらすべては終わる。

 けれど、西園寺さんが私のことを信じてくれる自信なんてまるでない。
 再会したばかりの頃、過去の話をしたときの西園寺さんのあの拒否反応。

また、西園寺さんが私を突き放したら――。

そう思うと怖くて仕方がない。

 だから、誕生日なんてものを持ち出したのだ。私の誕生日なら、西園寺さんも聞いてくれるかもしれないと、4月30日に願いを託した。

 私が、ありのままを一生懸命に伝えたら、今度は聞いてくれるかもしれない。

そして、ちゃんと好きだと伝えたい――。

そう決めたのだ。



「――お気をつけて、行ってらっしゃいませ」

車がホール前に到着した。

「ありがとうございます。行ってきます」

細田さんがドアを開けてくれる。
いつものにこやかな笑みが、私を送り出してくれた。

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