囚われのシンデレラ【完結】
「小学校から大学までずーっと一緒。おまけに、来月からもここのホテルで働き始めるし。そこらの兄弟よりよっぽど長い時間一緒にいると思うよ」
「――まったく。嫌になるくらいな」
溜息を吐きつつ、西園寺さんが表情を緩める。
「嫌になるとか言うなよ。大ホテルチェーンの御曹司様は、とかく特別扱いされて。それにはいい面もあれば悪い面もある」
「まあ、おまえくらいだな。俺にそんな風に何の気兼ねもなしに言いたい放題言って来る奴は」
「そこが、俺のいいところでしょ?」
そう言って斎藤さんが西園寺さんの肩を叩いた。
本当に、二人は友人以上の関係なのだろう。二人の醸し出す雰囲気から、それは容易に理解出来た。
「――でも、佳孝が特別扱いされてしまうのは、仕方のないことだ。そういう家の人間なんだから。それだけは忘れるな。特別な人間は特別な環境で生きて行かなくちゃいけないんだから」
どうして、私の顔を見て言うのだろう――?
斎藤さんの視線を、不思議に思いながら見返す。
「代々続く会社をきちんと受け継いでいく。そうなるのにふさわしい人間になるように、周囲が手をかけ育てて来たんだ。だからこそ、その立場に相応しい、誰から見られても落ち度のない行動をして、付き合う相手もそれ相応の人間でなければならない――」
斎藤さんが、私を真っ直ぐに見つめる。柔らかな雰囲気の中、その目だけが真剣だった。
一体、何が言いたいのだろう――。
「おい、いい加減にしろ。この子には、そんな話、関係ないだろ」
西園寺さんの声に、ふっと我に返る。
「そうだね。あずさちゃんには関係のないことだ。じゃあ、僕は先に行ってるから、昼飯食べ終わったら早く来いよ。またね、あずさちゃん」
最後は、最初に見せていたのと同じ優しい表情に戻り、斎藤さんは立ち去った。
そしてまた二人になる。