囚われのシンデレラ【完結】
その夜は、久しぶりに深い眠りに落ちた。
目が覚めた時には、部屋は少し明るくなっていた。そして、目を開くと、私の隣に横たわっていたはずの西園寺さんの姿がなかった。
夢だったの――?
怖くなって、心臓が痛いほどにドクドクと鼓動し始める。
咄嗟に身体を起こした。辺りを見回すと、既にスーツを着て、ネクタイを締めている西園寺さんの姿が目に入った。
「……西園寺さん」
「――おはよう。起こしたか?」
私に気付いた西園寺さんが、その表情を緩めてベッドに腰掛けてくれた。まだ心臓が壊れそうなほどに動いている。
「う、ううん」
「……どうした。身体、辛いか?」
私を見つめる顔が、すぐに心配そうなものに変わる。
「起きて、西園寺さんが隣にいなかったから。夢だったのかなって思って、怖くなって……」
そう言うと、ふわっと西園寺さんの影が私に近付く。
「夢なんかじゃない。夢だったら俺が困る」
私の素肌のままの背中を抱き寄せて、優しく髪を撫でてくれた。
「夢じゃなくて、良かった……」
「身体、大丈夫か?」
「平気、です」
抱き締めてくれる西園寺さんの胸に顔を寄せる。きっちりと首元を包むネクタイが、もういつもの西園寺さんに戻している。
でも、こうして優しく声を掛けてくれることに深く安堵した。
「食事も忘れて、あずさを抱きまくってしまったからな。今日は、ここでゆっくり休んでいろ」
「で、でも、私、朝ご飯の支度――」
慌てて顔を上げようとした私に、西園寺さんが唇を重ねて来た。
その唇が離れて、目をぱちくりとさせる。
「まだ朝早いんだ。今日は早めに出勤する。俺のことはいいから、ゆっくりして。分かったか?」
「すみません、ありがとうございます」
大きな手のひらが私の頬に当てられ、包み込むように見つめられる。
「じゃあ、行って来る――」
「西園寺さんっ」
立ち上がろうとしたその腕を、思わずぎゅっと掴んだ。
「ん?」
「私、西園寺さんに話したいことがたくさんあるの」
「ああ。そうだな。俺も、あずさと話したいことがたくさんあるよ。ちゃんと、話をしよう」
これまでのこと、これからのこと。全部、ちゃんと話したい。誤解をすべて解きたい。心から分かり合いたい。
「……西園寺さん、好きです」
忘れてほしくなくて、そんなことを口にしてしまった。
「あずさ――」
今度はさっきより深いキスが降って来る。
また身体が熱くなってしまいそうなキスに、無意識で西園寺さんの上着を握りしめてしまう。
長いキスの後、絡まった舌が離れて、西園寺さんが私を見つめた。
「これ以上すると、仕事に行けなくなるから。じゃあ、行って来る」
「……はい」
立ち上がって離れた身体に、もう切なさを感じている。