囚われのシンデレラ【完結】
9 守りたい、大切な人


 人気(ひとけ)のないオフィスを歩き、常務室へとたどり着く。今朝は時間も早かったため、自分の車で出勤した。

 上着を脱いで、デスクの席に着いた。目の前には、昨日放り出したままになっていた仕事が積み上げられていた。

 背後にある窓からは明るさを増して行く太陽の光が差し込む。パソコンを立ち上げ、資料を手にした。

”センチュリーホテル・メキシコシティ(仮)オープンに伴う――”

『私も、好きです。西園寺さんが好きなんです……っ』

まさか――そう思った。

『欲しい。西園寺さんが、欲しいの――』

あずさの、俺を求める切なげな表情――。

あずさのベッドの中の姿態が蘇りそうになって、思わず口元に手を当てる。

あずさも、俺を想っていた。

どうして、気付いてやれなかったのだろうか。

いや、気付かなくても無理はない。

一緒に暮らしていく中で、俺に気持ちを向けてくれるようになったのか。

あんな俺の態度で――?

あずさに負い目を感じさせたくなくて、感情はないと思い込ませるためと自分の葛藤から懸命に冷たく接して来た。

でも、それはすべてあずさを苦しめることになってしまっていた――。

あずさも俺を想ってくれていると知った今、自分のするべきことの方向を転換させなければならない。

 もう、あずさを解放するなんて俺には出来ない。抑えに抑え込んで来た感情が、溢れてどうしようもない。
 これからは、抑える必要がない。思うままに、あずさを愛していいのだ。そう思うと、たまらなく幸せな気持ちになる。

 こんなに満たされた気持ちになったのは、いつ以来か。

暗い闇の中を心を閉ざして生きて来た。
誰にも心を許せず、心を失くして。

結局。あずさにだけはそうできなかった。

 でも、解決していない問題が消えてなくなったわけではない。

 公香さんのこと――もしかしたらとは思ったが、まさか本当にあずさの前に現れるとは。

あずさの将来のこともある。
やはり、あずさには夢を諦めてほしくないと思っている。

とにかく、今一番必要なことは、二人で話をすることだ。
 
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