囚われのシンデレラ【完結】
どうして、そんなことを――。
(公香さんが最後に会ったのは、あずささんらしいな。一体何をしたのかと、漆原さんの怒りは相当のものだぞ。もしものことがあったら、どう責任を取るつもりだ?)
あずさって……どうして、ここであずさの名前が出る――?
「一方的に会いに来たのは向こうの方だ。何をしたのかって、あずさは俺の妻だぞ!」
(弁解したいことがあるなら、直接漆原さんに言うことだな。本当に守りたいなら、おまえが行くしかない。夫としての責任と、そして、センチュリーの後継者としての責任を果たしに行け。これは社長命令だ)
受話器を持つ手が、怒りで震える。
それを投げつけるように叩き置くと、遥人に声を上げた。
「玄関に車を回せ」
「何か、あったのですか……?」
いずれ遥人も知ることになるのかもしれない。でも、できうる限りそれは先伸ばしたい。
絶対にあずさの耳には入れたくない。
遥人の言葉には答えずに、部屋を出た。
急いでエントランスへと向かうと、車は既に横付けされていた。それに急いで乗り込む。
「中央総合病院までお願いします」
「わかりました。何か、あったのですか……?」
運転席の細田さんの問いに、声を絞り出す。
「公香さんが自殺を図ったと連絡がありました」
「えっ……?」
細田さんが絶句する。
「昨日、お送りした時、思いの外落ち着いていらっしゃったので安心していたのですが。今、思えば、こうすることを決めていたからこその穏やかさだったのかもしれませんね」
車を発進させて、細田さんが言った。
「とにかく、ご無事を祈りましょう」
握り締めた手を額に当てて必死に祈る。
頼むから、命はとりとめてくれ――。
浮かぶのはあずさの顔ばかりだ。
公香さんは命を失うかもしれないというのに、俺は冷たいのだろうか。
あずさを傷付けたくない。
昨日、ただでさえあずさは、公香さんに向けた言葉に苦悩していた。
頼むから、死なないでくれ。