囚われのシンデレラ【完結】
「どうして、こんなところにいるの……?」
腕を掴まれたまま、柊ちゃんの顔をまじまじと見つめる。その目は、酷く険しかった。
「おまえが落ち込んでるかもしれないって、おばさんに聞いて。ちょうど、あずさの演奏聴きに行こうと思っていたから、様子を見に来たんだ。そしたら、ラウンジでの演奏の時間を間違えてて。仕方なくホテルの辺りをうろうろしていたら、あずさが見えた」
それで、どうしてそんなに怒ったような顔をしているのだろうか。
「今、一緒にいた人、あれ、西園寺さんだよな?」
「え……?」
険しさが増していくその視線を、驚きで見つめ返す。
「どうしてあの人とあずさが一緒にいるんだよ。どんな関係だ」
「柊ちゃん、あの人知ってるの……?」
柊ちゃんから、西園寺さんの名前が出て来るとは思わなかった。
「あの人、俺の大学の有名人だから。このホテルの経営者一族だよな? 俺と同じ学部の四年生。知らない人なんて誰もいない。おまえ、どういう人か分かって親しくしてんのか?」
「別に、親しくなんかないよ。ただの知り合い」
すぐさま否定する。そう、ただの知り合いだ。あの人がどんな家の人だろうと何の影響もない、ただの知り合いでしかない。
「それより、この腕離して――」
「じゃあ、なんでそんな顔してんだよ」
柊ちゃんの手から逃れようと腕を強く引いたら、それ以上の力で引き戻された。
「そんな顔って、どんな顔よ。本当にただの知り合い。西園寺さんも今このホテルでバイトしてて、それで顔見知りになった。それだけだよ」
「ホントかよ」
「しつこい!」
今度こそ、腕を振り払ってやった。
「……分かったよ」
柊ちゃんは、ようやくその言葉を口にした。
「俺らには想像もつかない世界にいる人なんだ。それにあの人、金持ちってだけじゃない。あのイケメンだ。おまえが近づいていいことなんか何一つない。ろくに恋愛経験もないおまえがどうにかなる相手じゃないからな」
これ以上そのことについて柊ちゃんと話し合いたくなくて、小走りと早歩きの狭間のようなスピードで歩く。柊ちゃんは私の後をついて来ながら、まだそんなことを言い続けている。
「だから、そういうんじゃないって言ってるけど」
別に、これまでと何も変わらない。関係ない。