囚われのシンデレラ【完結】
あずさの優しい言葉が、余計に辛い。
そんな風にずっと、勝手に誤解していた俺の気持ちまで思い遣って、この家で過ごして来たのか――。
その辛そうな歪んだ微笑みを見ていると、自分のして来たことが脳内に何度もよぎり、昨日までのようにあずさを抱きしめられない。
「あずさ、ありがとう」
抱きしめられない代わりに、絞り出すようにそう言った。
「西園寺さん。あなたを好きだという気持ちに、何も変わりはありません」
二人で暮らした冷たい日々の中でも、そう思ってくれた。そんなあずさに、俺は何が出来るだろう。
「……そう言ってくれるあずさに、せめてもの罪滅ぼしが出来るとしたら。この先も、何があってもあずさを守ることだと思ってる」
結局、無力だった。
それでも、そうすることでしかあずさの側にはいられない。
「俺に、一体何が出来るのか。俺といることで、またあずさを辛い目に遭わせてしまうかもしれない。でも、」
まだ、たどり着いていない真実がある。
公香さんは目を覚ましていない。
「すべてをかけて守るから。俺にあずさを守らせてくれ」
あずさに頭を下げる。
「そうでないと、俺は……っ」
「もう十分守ってもらってます。私は、西園寺さんが一緒にいてくれたらそれでいい」
あらゆることが矢になって、自分めがけて降って来る。
でも、今、あずさを前にして、弱音を吐く訳には行かない。
俺にはまだ、やらなければならないことがある――。
「西園寺さん、辛いんじゃないですか? 一番信頼していた人に嘘をつかれていたと知って、普通でいられるはずありません」
あずさが俺に手を伸ばす。細い指が俺の手に触れた。
「血で汚れるから」
思わず引いてしまった手を、あずさが優しく掴んだ。そして、大切そうに包み込むようにして自分の唇の方へと寄せた。
「俺のことなんていいんだ――」
「好きです。以前の王子様みたいだった西園寺さんも、私に冷たくしようとしても、冷たくしきれなかった再会した後の西園寺さんも。私は結局、西園寺さんを好きになるようにできている。私にとっては、どんなあなたでもいいんです」
何もかもが苦しくてたまらないけれど、目の前にいるあずさが俺を真っ直ぐに見つめてくれるから。
結局抱きしめずにはいられなくなった。
「あずさ、ごめん。本当にごめん――」
柔らかくて温かな身体を、潰してしまいそうなほどに抱き締めてしまう。
「ううん。こうやって抱きしめてくれたら、全部吹き飛ぶ。すぐに幸せな気持ちになります」
「……ああ。俺も」
ごめん。
ごめん――。
「好きです」
本当に、ごめん。
抱き締めれば抱きしめるほどに、苦しくなる。
あずさの匂いとあずさの体温が、俺を許そうとしているみたいにこの身体に沁みこんで行く。
だからこそ、これ以上あずさを傷付けるようなことが起きたら、もう決して自分を許せない気がした。