囚われのシンデレラ【完結】
「……これで、大丈夫だと思うんですけど。本当に病院に行かなくて大丈夫ですか?」
「十分だよ。ありがとう」
俺の手の傷を、あずさが手当てしてくれた。
巻かれた包帯が、なんだか実際よりも大袈裟に見えて苦笑する。
「西園寺さん」
目の前に向かい合って座るあずさが、改まるように口を開いた。
「柊ちゃんが私に電話して来たのも、斎藤さんが柊ちゃんに公香さんのことを私に伝えるようにって言ったからなんですよね……」
躊躇いがちな言葉に、その胸の内を知る。
「おそらくそうだろう。あずさが傷付いていれば、彼があずさを引き寄せやすい。そう考えたんだろう」
「――だからって、柊ちゃん、私のお母さんまで利用するなんて……」
加藤柊にそこまでさせて――。
いつか、遥人が言っていた。
”人は、本当に欲しいものがある時、自分を変えてしまえるんじゃないか?”
遥人。おまえは、そうまでして一体何が欲しいんだ――?
「道を踏み外してしまうくらいに、あずさを手に入れたかったんだろうな。でも、彼はあずさのお母さんまで巻き込んだことを後悔しているみたいだった。最後の最後の部分では、あずさを純粋に想う気持ちも残っているんだろう」
だからと言って、加藤柊に対して何一つ同情する気にはなれない。理解もしたくない。
それでも、あずさの傷を少しでも和らげてやりたかった。
「大丈夫。もう、彼はあずさを傷付けたり困らせるようなことはしないはずだ」
あずさの頭をそっと撫でる。
「彼を許すも許さないも、どちらだっていいんだよ。あずさが自分のしたいようにすればいい」
「でも、柊ちゃんは、私だけじゃなく、西園寺さんも傷付けて苦しめたんですよ」
その目が俺を苦しげに見つめる。
「俺はもう、あずさが苦しまないならそれでいいんだ。俺のことは考えずに、自分の気持ちのままでいればいい」
少なくとも。
俺と離れていた7年間、父親を亡くして心細い思いをしていたあずさの傍にいて、力になっていたんだろう。その時、あの男があずさに対して抱いた思いに嘘はないはずだ。
そのことをあずさも分かっているから、すべてを否定できず葛藤して辛いのだ。
「西園寺さん――」
突然、あずさが俺の腕を掴む。そして、その目が不安げに俺を見上げた。
「私は誰よりあなたのことが心配です。だって。さっきからずっと、自分のことを何も言わない。西園寺さん、自分のことなんてどこかに行っちゃってる。私に謝って私の気持ちを慮って、柊ちゃんのことまで。あなたのことは? ちゃんと自分も大事にしてあげてください……っ」
「あずさ――」
その身体が俺の胸に飛び込んで、頬を胸に押さえつけて来る。
「なんだろう。今の西園寺さんを見ていると、とても怖くなる」
きつくあずさの指が俺のシャツを握りしめた。