囚われのシンデレラ【完結】
ロックのかかったフォルダに、恐る恐る別のパスワードを入力してみる。
開いた――。
ドクドクと震える手でマウスを握る。
何か一つでいい。頼むから、資料を残しておいてくれ――。
その願いを込めて、クリックした。
”保存期限”
そうタイトルの付いたファイルが一つ入っている。それを開くと、そこには数々の会計書類の名称が書かれていた。そして、その保存期限の年月日が記載されている。ただそれだけの書類だった。
会計書類と、1つの保存期限……。
このたった1つのファイルの意味するもの。そこに記された日付の意味を考えてみる。脳内でありとあらゆる角度からその日付を検証して。一つの答えにたどり着く。
その日付は、投資で損害を出した年の会計書類の保存期限に該当するのでは――。
どうしてその年の会計書類の保存期限だけが、こうしてわざわざ書かれているのか。
それは、その期限が重要なものだから――。
あの年に何が行われたのか。その日付をもって、記録された書類はすべて廃棄できる。
何がなされたとしても、すべて闇に葬れる――。
さっき過った一つの仮定が真実味を帯びて、身震いする。
おそらく、俺がコンサルティングファームに調査の依頼をしたことは見当違いなんかではなかった――。
その事実を知ることが、どれだけ大きなことなのか。この先に待っているであろう真実を抱えきれるのか。
でも、ここで引き返すわけには行かない。
急いで社に戻った。
もう一度、あの年の会計書類をすべて見直す作業は既にコンサルティングファームにも依頼済みだ。数日後には何かしらは調査報告が届くだろう。
もし、あの当時、損失を不正に処理していたとしたら――。
まだこの状況では明らかな証拠は何もない。ただの憶測でしかないけれど、どうしてもその憶測から逃れられない。