囚われのシンデレラ【完結】
「……まだ起きていたのか」
深夜、自宅に戻ると、飛んで来るようにあずさが駆け寄って来た。
「心配だったから」
唇を噛みしめる不安そうな表情に、胸の奥が痛む。
「……そうか。そうだよな。ごめん――」
あずさの頭に置こうとした、包帯の巻かれた手を止める。触れることなくそのまま自分の方へと手を戻した。
「でも、大丈夫だ。安心して寝てくれ。もう遅い――」
「西園寺さん」
あずさから離れようとした時、あずさが勢いよく抱き付いて来た。
「凄く冷たいです。ずっと、外にいたんですか」
「いや、違うよ。外が寒かっただけだから」
その背中に手を回せないでいると、あずさが俺の背中をきつく掴んだ。あずさの不安がより伝わって来る。
躊躇いを振り切り、あずさの身体を抱きしめた。出来る限り不安な気持ちを取り除いてやりたい。
「あと少しで解決できたらと思ってる。そのためにいろいろと動いているから帰りが遅くなることもあるけど、今が大事な時だから」
その背中を優しく撫でる。
「二人で本当に笑える日が来るように俺も精一杯力を尽くす。あずさも、もう少しだけ辛抱してくれるか?」
「もちろんです。私は西園寺さんの、つ、妻、ですから!」
あずさの温かな体温が、冷え切った身体に染み渡って行く。
「……ありがとう」
その体温をもっと感じたくてきつく抱きしめると、あずさからくぐもった声が聞こえて来た。
「西園寺さん、今日も、一緒に寝てもいいですか?」
「バカだな。そんなの、聞くまでもない」
その頬を両手で包み込む。
「俺が、あずさの隣で眠りたい」
そう言うと、あずさがほっとしたように顔を上げた。
「疲れてるだろうから、一人の方がゆっくり寝られるかなとも思ったんですけど……良かった」
はにかむあずさに、どれだけ荒んだ心でもじんと温かくなって。そんなことを嬉しそうに言う唇を見ていたら、キス、したいと、思ってしまった。こんな状況の中で、そんな欲求が湧く自分に呆れる。先ほどまでの躊躇いはどこへ行ったのか。あずさといると、どんな淀んだ心もなかったものになって、あずさを想うただの男に戻ってしまう。