囚われのシンデレラ【完結】
それから、時間の許す限り調査を尽くした。
「これは……」
辿り着いた、一つの裏データ。それから想定される事実の大きさに、言葉を失う。ちょうどその時、自分のデスクの電話が鳴る。
「……もしもし」
早い鼓動のまま取った電話の相手は、米国のコンサルティングファームだった。
"――詳細は報告書として提出しますが、とりあえず結論を。不正な会計処理による、粉飾決算が行われていた可能性が非常に高い"
――粉飾決算。
そうであって欲しくないと強く望んでいたのは、おそらくそうだろうという予感の裏返しだったのだ。
"投資による損失が発生した年度は、その損失を実に巧妙に様々な利益で隠し、ありもしなかった資金援助も織り混ぜている。絶妙で現実的なバランスの上で処理されているため、一見、貸借対照表も損益計算書も何ら問題があるようには見えない"
やはり、漆原は資金援助などしていなかったのだ。あろうことか、投資による損失を粉飾していた。
"粉飾はその1年では済んでいない。おそらく2年に渡って行われていた。西園寺さんが、センチュリーにちょうどいない時だ――"
その不正は、過去のことだ。
俺が戻った頃には、正常な処理が行われ、実際大幅な利益も出している。
このまま時間さえ過ぎて行ってしまえば、なかったことに出来るのかもしれない。
この処理を知っているのは、おそらく、父を含めたごくごく限られた経営陣たち。
彼らは、まさにそれを狙っているのだろう。
父のパソコンにあった、会計書類の保存期限がそれを示している。
今、過去の不正が世間に明るみに出たら――。
センチュリーはただでは済まない。法的責任はともかく、社会的イメージは地に落ちる。市場からの信頼は失い、株価は大暴落する。経済的損失は計り知れない。
電話を切った後、一人、答えを考え続けた。
それからどれだけの時間が経っただろう。部屋のドアからノックする音がした。
「斎藤です」
あれからちょうど3日。期限の日だ。