囚われのシンデレラ【完結】
”世界的ホテルチェーン センチュリーホテル若き御曹司を巡るドロ沼三角関係”
それは、週刊誌の記事原稿と思われるものだった。素早くその記事に目を走らせる。
――その経営手腕から、メディアに取り上げられたことにより注目されているセンチュリーホテルの若き御曹司、西園寺佳孝氏が結婚していたことが分かった。その結婚は、イケメン御曹司を巡る衝撃の略奪婚だった。
「最近、君、かなりの人気みたいじゃないか。テレビなんかにも出ていたんだって? 社会的地位も能力もあって、それに何より美男子だ。マスコミも放ってはおかないよな。世の女性たちから注目されていると、たびたび私も耳にしていたよ。行きつけの店でも、君に会いたいなんていう女の子が多くてね」
目には隠しが入っているが、それは明らかにあずさだと分かる写真が掲載されている。
――婚約者がいる身の西園寺氏を、飲食店で働いていた女性Aさんが略奪。
「……こんな書かれ方をされる覚えはない」
それは、読むのも耐えがたい、明らかにあずさを一方的に悪女と仕立て上げた記事だった。
――悲嘆に暮れ憔悴し切っているという元婚約者。玉の輿といえる結婚を手に入れたAさん。あまりにその落差は激しい。結婚を控えた女性が突然婚約者を奪われたら。その時の苦しみは想像に難くない。
「真実は作り上げることができる。それが本当かどうかなんて関係ないんだよ。それを受け止めた者が決めることだからな。マスコミの発する情報など、ほとんどがそういうものだと君も分かるだろう?」
――”Aさんは、昔から男性には人気がありました。でも、男性への接し方に計算があることは同性の友人は知っているんです。その上彼女はかなりの野心家で。今回も、狙った相手を手に入れるために緻密な計算の上近づいたんじゃないでしょうか。”
この記事の意図は一つ。
あずさを批判の的にすること――。
事実を捻じ曲げ偏りのある書き方をしている。それは明白だった。