囚われのシンデレラ【完結】

「これが世に出たら、君の奥さんはただでは済まないだろうねぇ。せっかく君がこれまで大切に隠して来たのに、その生活を一変させることになる。日本中の女性たちから目の仇だ。こういう事に女性は厳しいからね。マスコミに追い回されるよ? いくら週刊誌では顔を隠していても、特定なんて簡単にされる」

事実とは違うと叫んでみても、それがどんなに虚しいことか。
一度世間に出てしまえば致命的になる。後から事実と異なると判明しようと、出回ってしまったという事実は消せない。

「君がただの御曹司だったら良かったな。センチュリーはあまりに大き過ぎた。そして君は、あまりに注目され過ぎてしまった。自分のその容姿でも責めたらいい」

握りしめる紙が震える。

「さあどうする? 公香を選べば、会社も君の大切な人も両方守れる。これまでの無礼はすべて水に流そう。センチュリーの秘密についていも、我々が家族になれば運命共同体だ。娘のために闇に葬る。私は冷酷な人間ではない。こうして交渉の余地を君に与えているんだ。その記事を、今すぐに出すことも止めることも私には出来る」

漆原が俺に一歩近づく。

「大切な大切な君の奥さんを守れるかは、君の判断にかかっているんだぞ?」
「こんなことをして、自分が恥ずかしいとは思わないのですか? これが、本当に公香さんの望んでいることですか」

漆原を睨み上げる。

「君に公香の傍にいてやってほしいだけなんだよ。でも、君の愚かなほどの頑固さから、簡単にはいかないと分かったんだ」
「馬鹿げてる……」

漆原は突然声を上げ笑った。

「私は君を信じているよ。君が大馬鹿者ではないことを。君がセンチュリーの不正を告発したとして、同時にこの記事が出たら……相乗効果で騒ぎになるな。君が経営者としての真っ当な判断力があるのなら、何を選択するべきなのか考えるまでもない」

そう言って身なりを正し、俺を真正面から見上げて来た。

「その記事をもみ消そうとしても、無駄だよ。うちとはいろいろと(・・・・・)深いかかわりのある出版社だからね。じゃあ――」

背を伸ばすようにして俺の肩に手を置いた。

「良い連絡を待っている。私もせっかちだからな。そうは待てないぞ。公香には一刻も早く君が必要だ」

冷静になれと、警告のように自分に言い続ける。

冷静になれ。

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