囚われのシンデレラ【完結】


 渡された紙きれを、自分のデスクに置く。

 その紙きれと同じくらい、薄っぺらい内容。でも、それがどれだけくだらなくとも、世に出れば勝手に大層な意味を付され、面白おかしく取り上げられ興味本位に語られて行く。
 そして、赤の他人にとっては、時間が経てば忘れて行くもの。けれど、当の本人にとって、それがどれだけ大きな傷となりトラウマとなるか。

 世間の目の恐ろしさは、味わったものでなければきっと分からない。

 海外のホテルで働いていた時、何人かVIPの対応をしたことがある。その中には、パパラッチから身を隠すためホテルに滞在していた人もいた。そういうことが織り込み済みの仕事をしている人間ですら、精神をおかしくする。
 人の目に怯え、病んで行く姿を見て来た。

 俺一人なら、どれだけ批判に晒されようとかまわない。でも、あずさだけは絶対にダメだ。
 これからバイオリニストとして世に出て行ける可能性も秘めている。余計な色を付けたくない。

それに何より――。

あずさの心のままの笑顔が頭を埋め尽くす。
あずさを壊すことは出来ない。

そんなことをしたら、今度こそ俺は――。

どんな手段を使おうとも、こんな記事は絶対に出させない。

 漆原が部屋に入る前にセットした小型ボイスレコーダーを、上着の内ポケットから取り出す。会計処理の不正を察知してから、会話の内容を録音することにしていた。

 スマホを手にする。
 社の顧問弁護士を使うわけにはいかない。今回の不正を調査している中で、個人的に契約したばかりの弁護士のアドレスを表示させる。

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