囚われのシンデレラ【完結】
「――お疲れ様でした」
「一か月間、ありがとうございました」
「毎日で大変だったけど、楽しかったです」
演奏を終えてお客さんの前から引き上げ、三人でお互いをねぎらい合った。
ラウンジから出てから振り返ると、そこに西園寺さんの姿はなかった。
もう帰ったのかもしれない。たまたま、用事で来たついでに聴いて行ってくれただけかもしれない。
きっと、そうだ。
バイオリンを手にして控室に戻ろうとした時、突然人影が飛び出して来た。
「あずさ!」
「……柊ちゃん」
私の方へと駆け寄って来るその姿に気付いた二人が、「先に戻ってるね」と私に耳打ちして来た。それに「すみません」と頭を下げる。そして柊ちゃんと向き合った。
「来てたんだ」
全然気づかなかった。
「そりゃあ来るだろ。この前は、時間、間違えて聴けなかったんだから」
いつもはTシャツにパーカーのようなラフな格好が多いのに、ジャケットを着ている。
「おまえの演奏さ、その、何て言うか……」
「どうせ、眠かったとか、退屈だったとか言うんでしょう?」
何故か目の前の柊ちゃんの口調がしどろもどろとしていて、軽口を叩いてみる。
「ちげーよ!」
「だったら何なの」
突然声を張り上げて来た柊ちゃんに、身をのけぞらせた。
「感動したんだよ。クラシックの曲で感動したのなんて初めてだ!」
「そ、それは、ありがとう」
柊ちゃんが、顔を赤くしてそんなことを訴えて来る。
「クラシックの良さに気付いたんなら、今度、リサイタルにでも女の子誘ってみれば?」
「ば、ばか。そんな相手いねーよ」
「大学生にもなって、誘う女の子の一人もいないの? 寂しいね」
「おまえに言われたかねーわ」
今はこうして、柊ちゃんとどうでもいい話をしていたい。
余計なことは、もう考えない――。
落ち着かなくてざわつく心を必死に押さえ込む。
「はいはい。どうせ、私も一人身で、女らしさの欠片もありませんからね」
「……そんなこと、ねーよ」
「え……?」
どうせまた、憎まれ口が返って来るのだと思った。
「お、おまえ、そこそこ可愛いし。今日なんて、そんなドレス着て、急に大人っぽくなってて、驚いたし――」
「な、何、言ってんのよ。急にそんなこと言わないでよ。私のドレス姿初めて見たから、どうせ錯覚でもしたんでしょ。恥ずかしい」
柄にもないことを言い出すから、調子が狂うじゃないか――。
つい、きつい口調で言ってしまった。
「ああ、ああ、そうかもな。ほんっと、おまえ可愛くねぇ」
「たった今、そこそこ可愛いって言ったのはそちらですけど――」
「――進藤さん!」
そんなくだらない会話をしているところに、私を呼ぶ声がした。声の主の方へと視線を彷徨わせると、こちらへと近付いて来る西園寺さんの姿が視界に入る。
「西園寺、さん……?」
「え……っ」
私の声に、柊ちゃんも後ろを振り返った。